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「うおっと……」
出現したのは海の上。
慌てて飛行魔法を展開するも、上手く制御できずによろけてしまう。
あの不思議空間にいたから気付かなかったが、どうやら俺の魔力は相変わらずギリギリ、内臓もボロボロのままらしい。
「でもまあ……大丈夫か」
≪はい。魔力二種と霊力、それぞれ残り少なくとも合わせれば最終決戦への参加は可能です≫
「そいつは重畳。ここでぶっ倒れたらまたアルフに“役立たず”呼ばわりされちまうからな」
ふと光が集束するのを感じ顔を上げる。
フェイトだ。
どうやらあっちも無事脱出できたらしい。
「やっぱあいつも無事か。
それにしても……うーあー、なんか気持ち悪い」
≪なら喋んじゃねえよ。あんま調子乗ってっとまた血ぃ吐くぞ≫
「あいよー」
渋々口を閉じると、なのはに合流する。
すぐさまフェイトもやってきて、全員で無事を喜び合った。
「で、だ……」
遥か下、海面を睥睨する。
海鳴市沖、海の真っ只中に明らかにやばそうな黒い澱みがある。
「あれが切り離した防御プログラム、か。
いや、はやてを手伝ってる時もデータの多さに参ったが、こうして見るとクソでけえな」
「って、そうだ!? ジンゴ君、そう言えばどうしてはやてちゃんの所にいたの!?」
「あ、ちょ、まっ、こらっ、ふ、振るんじゃねえ。
そんなことしたらっ……ごふっ……あー……」
「って、うわっ、ジンゴ、大丈夫!?」
「ジンゴ君! ジンゴ君! 死んじゃやだよおっ」
いきなりなのはに揺さぶられたものだから中身が少しはみ出てしまった。
なのはのバリアジャケットが白いから、赤が目立って仕方ない。
何か垂れてる口元を拭うと、逆の手でなのはの額にデコピンをお見舞いする。
「あたっ!?」
「勝手に人を殺すな!
ったく、あの時ならともかく、今はベオがちゃんとここにいるから平気だ」
「そう言えば髪とか目の色、違うけどどうしたの?」
「あー、そっか。フェイトは前の時はゆっくり俺を見る所じゃなかったもんな。
これが俺とベオのユニゾン状態だ」
「ユニゾン?」
「……平たく言や合体だよ。……ん?」
俺達とは少し離れた所に白銀色の繭のような物が出現する。
その周囲を護るように、四色の光が配置された。
帰ってきたか。
それぞれの光から、騎士達が現れる。
それに俺は囁くように喜びを告げた。
「……お帰り、はやて」
「ヴィータちゃん!」
「シグナム!」
俺の言葉に同方向を見ていた二人が喜びの声を上げる。
巨大な白い三角形の魔方陣の上、シグナム、シャマル、ザフィーラ、ヴィータが帰還を高らかに宣言した。
「我等、夜天の主の下に集いし騎士」
「主ある限り、我等の魂尽きる事なし」
「この身に命ある限り、我等は御身の下にあり」
「我等が主……夜天の王、八神はやての名の下に!」
光の繭からはやてが生まれ出てくる。
手には見たことのない、十字を模った杖。
「はやてちゃん!」
なのはの声に彼女は笑顔を返し、杖を上空に掲げた。
「夜天の光よ、我が手に集え! 祝福の風リインフォース、セーーットアップ!!」
光と共にはやてが騎士甲冑を纏う。
その髪や瞳は、ユニゾンの証として大きく色を変化させて。
どこか、リインフォースを思わせる容姿のまま、はやては満足げに頷いた。
「あれって……」
「ジンゴと同じ、だよね?」
「ああ。夜天の魔導書と言うよりリインフォースだな。あいつはユニゾンデバイスだ」
再会を喜ぶはやてと騎士達にゆっくり近付いて行く。
と同時に覚えのある魔力を更に上空へ感知。
それに酷くあんどを覚える。
やれやれ、どこに行ってたのかは知らねえけど、これで俺が指揮を執る必要はなくなったかな。
現状魔法行使だけで手一杯な状態。
そちらまで意識を割ける自身がなかったので助かる。
が、あいつはいったいどこに行ってたのかと首を捻った。
「なのはちゃんもフェイトちゃんもごめんなあ。うちの子が色々迷惑かけて」
「ううん」
「平気」
「ジンゴ君はありがとうな。手伝ってくれて」
「ま、ベオを取り戻すついでだったしな」
肩をすくめてから、さてどうしたものかと考える。
あの澱みの様子を見る限り、今すぐピンチになると言うわけではないが、結構時間はギリギリのはずだ。
あとのリミットがどの位なのか俺には皆目見当がつかないが、これから降りてくる奴は知っているのだろう。
そう結論付けるよう考え込んでいる内にクロが上空から降りてきてくれた。
それに俺はわざとらしく肩を竦めてみせる。
「ああ、助かった。バトンタッチな」
「君な……まあいい。
すまないな、水をさしてしまうんだが、時空管理局執務官クロノ・ハラオウンだ」
名乗ってからぎろりと俺を睨みつける。
それにおお怖いと首を縮めた。
そんな風に見られたって俺もさっき帰還したばっかなんだがなあ……
「まったく、執務官である君が場を纏めておいてくれればもうちょっと迅速に動けたものを……っとと、すまない。
時間がないので簡潔に説明する。
あそこの黒い澱み、闇の書の防衛プログラムがあと数分で暴走を開始する。
僕等としてはそれをなんらかの方法で止めないといけない」
クロが全員を見渡す。
今になって気付いたが、場にはユーノやアルフもいる。
どうやらいつの間にやら合流していたらしい。
「停止のプランは現在二つある。
一つ、極めて強力な氷結魔法で停止させる。
二つ、軌道上に待機している艦船アースラの魔道砲、アルカンシェルで消滅させる。
これ以外に、他にいい手はないか?
闇の書の主とその守護騎士の皆に聞きたい」
すると、それまで大人しく話を聞いていたシャマルがおずおずと手を挙げた。
「ええーっと、最初のは多分難しいと思います。
主のいない防衛プログラムは、魔力の塊みたいなものですから」
「凍結させてもコアがある限り再生機能は止まらん」
「シグナムの意見に同意。
切り離す時にちょっくら解析したが、ありゃコアがある限りどんな状態からでも再生するぜ。
完全に化け物クラスだ。流石はロストロギアってな」
俺の発言に幾人かが微妙な顔をする。
が、すぐにアルカンシェルに大反対を始めたヴィータに注目が集まった。
「こんな所でアルカンシェル撃ったら、はやての家までぶっとんじゃうじゃんか!」
「そ、そんなに凄いの?」
「発動地点を中心に数百十キロ範囲の空間を歪曲させながら反応消滅を起こさせる魔道砲って言うと、大体分かる?」
「いや、ユーノ、それ逆に分かりづらいんじゃねえか。
そうだな……簡単に言や、被害が少なめでも海鳴市はなくなるし、当て方が悪けりゃ地球ごと吹っ飛ぶ」
ユーノの言葉に具体的なヴィジョンが浮かばなかった様子のなのはに具体的な話をしてやる。
すると彼女は分かりやすいくらいに青ざめおたおたし始めた。
なのはとフェイトが絶対反対! とクロに詰め寄るが、彼は少しトーンを下げ、苦渋を含んだ声色で、
「僕も艦長も使いたくないよ。
でも、あれの暴走が本格的に始まったら、被害はそれより遥かに大きくなる」
「暴走が始まると、触れたものを侵食して無限に広まっていくから……」
ユーノの補足に全員が沈んだ顔を見せて。
そんな中、場違いなくらい明るい声が飛び込んできた。
『はーい、皆。暴走臨界点まであと一五分切ったよ! 会議の結論はお早めに!!』
「何かないか?」
クロは少し焦った表情で守護騎士達を見る。
だが、彼等の表情はあまり芳しくない。
「すまない、あまり役に立てそうもない」
「暴走に立ち会った経験は、我等にも殆どないのだ」
心底申し訳なさそうに言うシグナムとザフィーラ。
その後も会議は紛糾するが、一向にいい作戦は出てこない。
そんな中、宙で胡坐をかいて考え込んでいたアルフが爆発した。
「あーーっ、なんかごちゃごちゃうっとおしいなあ。
皆でずばっとぶっ飛ばしちゃうわけにはいかないの?」
「ア……アルフ、これはそんな単純な問題じゃあ……」
「……いや待て、ユーノ。アルフ、でかした! その手があったか!!」
「へ?」
驚くアルフをよそに、俺の隣で考え込んでいたなのはが恐らくは同じ解に至る。
はやて、フェイトも似たような様子だ。
ポイントになるのは各々の力量。
それも、このメンバーならいける!
「ずばっと……ぶっ飛ばす……」
「ここで撃ったら被害が大きいから撃てへん……」
「でも、ここじゃなければ……ジンゴ!」
顔を見合す三人に頷いてから、虚空に呼びかける。
「ああ! 可能だな、エイミィ!」
『ええっ、いきなり何が!?』
「って、ジンゴ、僕等にも分かるように説明しろ!」
「うおっと、すまん。ちと興奮しすぎた」
俺が気持ちを落ち着かせている間に三人がクロとエイミィに説明していく。
つまり肝は本当に単純な事。
ここで撃てないのなら撃てる場所にアレを移動させてしまえばいい。
「つまり、今アースラがいる軌道上でアルカンシェルを……撃つ?」
唖然としたクロをよそに、計算を終えたのかエイミィの力強い言葉が返ってきた。
『管理局のテクノロジー、嘗めてもらっちゃ困りますなあ。
撃てますよお、宇宙だろうが、どこだろうが!』
「っておい、まさか……ギャンブル性が高すぎるぞ!?」
「だけど今出来る最善だ。分かってんだろ、クロも」
「………………………………まあ、それしか、ないか」
長い長い葛藤の末、クロがようやく頷く。
さあ、反撃と行こうか!!