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手元にまともなパーツが揃っていない以上、デバイス関連の作業をするのにも限界がある。
ビットシステム仕様変更の為の設計図が書き終わってから、俺は完全に暇を持て余していた。
暇すぎて死ぬって状況じゃねえけど……
どう時間を潰したものかを考える。
俺のスタンスに関しては今考えても仕方のない事だ。
むしろ、ネガティヴな方向に傾いてしまいそうなので、誰かしらと話しながら決めた方がいい。
話せない事は多いが、それでも独りで考えるよりはましだろう。
トレイにスプーンを置いてから腕組み。
今更だが、丁度昼飯を食い終わった所だ。
病院食の感想は可もなく不可もなく。
母さんの飯に慣れてしまった俺の舌からすれば物足りない事この上ないが、病院食などどこも同じような物だろう。
贅沢は言うまい。
むしろ、飯の心配をせずに済むだけ今の環境は贅沢と言える。
「と言うわけでドラッケン、何かやる事ないか?」
≪キング……この5日間はゆっくりすると言ってませんでしたか?≫
「そうなんだけどな、どうにも何もせずにゆっくりしてるってのが苦手でよ」
≪昔から貴方はワーカーホリック気味でしたからね。
たまにはのんびりしても罰が当たらないと思いますが……≫
「つっても、何もしてないと人間腐るだろ……」
ネットにでも繋げれば暇は紛れるのかもしれないが今回はきちんとした端末を持ってきていない。
俺の立場は管理外世界の住人と言う事になっているので、怪しまれるような物の持ち込みはなるべく避けた為だ。
簡易端末ならクロノから借りた物があるので、後で繋いでみる事にしようか。
愛機ほどの機能は望めないが、暇つぶし位なら問題ないだろう。
≪そう言えばクロノさんから嘱託試験の連絡が来てましたよ≫
「お、なんだって?」
≪主に筆記と儀式魔法、戦闘実技ですね。
実技系はともかく筆記の勉強時間が必要ではないか、と≫
「あー、確かに」
いくら高ランク魔導師は通りやすいとはいえ、最低限は勉強しておかないと。
俺の魔力値は普通の魔導師にしては多めの部類に入るが、それでも高ランクと言う程高くない。
勉強はしておくに越した事がないだろう。
≪試験は申請後最優先で受けさせてもらえるそうなので、受けられそうな時期をあらかじめ申請し、準備が出来たら連絡して下さいとの事です。
詳しい日時が決まるのはその後のようですね≫
「あいよ。じゃあ時期は後で言うから、とりあえず了解って返しておいてくれ」
≪わかりました≫
管理局に関する勉強なんて何年ぶりだろうか。
尤も俺は魔法学校制の時に1度暗記しているので、まっさらな状態からじゃないのが救いだ。
でもなあ……
「俺だけ頑張るのもなんか違えよな」
儀式魔法が使えないってだけでこの手の勉強をパスしていい理由にはならんし。
どうせ正規局員になる時に覚えさせられるだろ。
今やっても同じ事だから、なのはにも座学の時間にこっち関係を叩き込むか。
≪キング……今のあなたはどこからどう見ても悪役ですよ≫
「っと」
いけない、いけない。
無意識につり上がっていた口角を元に戻すと、紙とペンを取り出した。
ミッドでは物を書く場合端末へ入力するのが一般的だが、俺は2度手間になろうとも紙とペンを好んで使っている。
ドラッケンの設計図を書き起こす時に紙を用いていたのもこの為だ。
何を考えるにせよこの方が筆が進むのだから仕方がない。
取り出した紙に俺が勉強し直す事や、なのはのカリキュラムの変更点を書き込んでいく。
半年で正規局員の知識レベルまで持っていくとすればやっぱ特訓かな。
そんな事を考えながらガリガリと記入していく内にふと気が付いた。
「あ」
≪どうかしましたか?≫
「管理局法とかのテキストどうすっかな。
俺の家が当時のままになってんならそこから持って来れるんだが、そうじゃない場合どっかで調達しねえと」
≪とりあえずキングの家がどうなっているのかはクロノさんに聞くしかありませんね。
必要ならミッドチルダの方へ足を伸ばしますか?≫
「……そうするか。聖王教会にもコンタクトを取りたいが……まだ難しいな」
≪嘱託資格を取ればある程度自由に動けますから、行くとすればその後ですね≫
「はあ……かったりぃ」
元々住んでいた世界でさえ満足に自由行動出来ないとは。
……いや、1度死んだ事になってるから仕方ないと言えばそれまでなのだが。
「とりあえずクロノにメールしておいてくれ」
≪聞くのは家の事ですか?≫
「ああ。ついでにクロノが使ってたテキストが余ってないかも聞いておいてくれるか」
≪わかりました≫
それを最後に再び作業に戻る。
やるべき事は書き出せたので今度はそれをスケジュール化していく。
あ、リインフォースの再構築の件があるから、この辺りはなのは1人でも出来るようにする必要があるな。
そうするとここの予定は詰めて……む、ここはなのはの学校のテストが……いや、大丈夫だろ。勉強しなくても点取れる程度には仕込んであるし……
などと、つらつら考えながら予定を練っていった。
なお、後日なのはがこのスケジュール表を見て顔面蒼白になったのは、割とどうでもいい話である。
「────ン、アラン!」
「うわっ!?」
「よかった。ずっとぶつぶつ言ってたけど大丈夫?」
目の前にはどアップになったフェイトの顔。
慌てて顔を引くと苦笑気味のクロノと首を捻るアルフが目に入った。
「いつの間に……」
「結構前からいたんですが、先生が思考に嵌ってしまっていたみたいでしたので」
「なるほど。そりゃすまんかった」
こんなに近寄られても気付かないなんて、少し気が緩んでいるのかもしれない。
「で、フェイト達を連れてきたって事は……」
「はい。フェイトの事情聴取もほぼ終わりです。
このままでもほぼ無罪は勝ち取れると思うんですが、やっぱり以前予定していた通り、確実な流れを作る為に嘱託資格を取得してもらう事になりました」
「そうか」
まあ嘱託資格を取って社会奉仕をすれば、保護観察期間も短くなるだろうしな。
早目に自由を手に入れるって点では、それがベターではあるか。
「それで、昨日預けたばかりで申し訳ないんですが、バルディッシュがどうなってるのかを見に来たんです」
「あの……急がせちゃってごめん」
昨日に引き続き押しの弱いフェイトに苦笑すると、ベッドから立ち上がる。
サイドボードのバルディッシュを取ると手渡した。
「主にやったのはフレームの取替えと強化。
エネルギーロスを少なくして、カートリッジは俺が使ってるやつと同系に替えておいた。
後は術者にかかる負担の軽減がメインだな。
全体として、フレーム強度が上がって、カートリッジ負担が減り、少し重量が軽くなってるはずだ」
「……凄いね」
まさかこの短時間で終わっているとは思ってなかったのだろう。
目を丸くしたフェイトを見て少しだけ口角を上げる。
「ま、これでも一応以前はデバイスマイスターだったからな。
これ位は出来んとフリーじゃ顧客がつかねえのさ」
「先生はかなり仕事を選んでいたらしいですけどね」
「なんで俺がムカつく奴にわざわざ時間を割かにゃならんのだ」
「とまあ、こんな風に顧客を選べる位腕がいいんだよ、先生は」
「はあー、そんなん事できるんだね。いい仕事じゃないかい、デバイスマイスターってのは」
いい仕事ってのは否定しないがな。
お前さんが考えているほど簡単なもんじゃないんだぞ、アルフ。
その隣で、世の中不思議がいっぱいなんだねと呟くフェイトに突っ込みを入れたい衝動に駆られたが抑えた。
この子は天然っぽいから一々突っ込んでたら大変だろうし。
「さて、一応調整は済んでるが、微調整は使ってみないと無理だからな。
試運転するなら付き合うが」
「あ、でも忙しいんじゃ」
「大丈夫だ。こっちの方はちと行き詰ってたからな」
結局軽いフレーム強化位しか出来なかったドラッケンを起動させる。
「クロノ……」
「まあどの道模擬戦はするつもりだったからね。
先生、アースラの訓練室なので少し歩きますがいいですか?」
「ああ、構わんよ。っと、担当医の説得手伝ってくれな」
コールで担当医を呼び出し事情説明。
クロノの口添えもあって、なんとか外出許可をもらえた。
なお、この時に再度お説教を受ける羽目になったのは内緒だ。
丁度この時間なのはが何かしら感じ取っていたらしいが、偶然と言う事にしておいた方が俺の精神衛生上いいので華麗にスルーした。
閑話休題。
ぱたぱたとスリッパを鳴らしながら廊下を歩いていく。
「アラン、ごめんね」
「あ……? 何がだ?」
「だってアラン怒られてた」
まあ昨日の今日だしな。
「医者からすりゃ面倒この上ない患者だからな、俺は。
まああんま気にすんな。俺が好きでやってる事だし、それにフェイトから貰うんなら違う言葉の方が俺は嬉しい」
「え? ……あ! ……あ、ありがとう」
「どういたしまして」
「うんうん、フェイトが最近凄く可愛くていい感じだよ」
満足げに頷くアルフに苦笑。
恥ずかしそうに礼を言ったフェイトの頭を一撫ですると、上着を羽織り靴を替える。
「さ、行こうか」
「はい、先生」
「中々いい仕事したな」
≪ええ、バルディッシュも嬉しそうでした≫
病室のベッドに横になりながら軽く伸びをする。
手元にはドラッケンが計測したデータ。
「フレーム強度8%上昇、カートリッジ負担15%減。
これだけでも充分っぽかったな」
≪その上重量も2%カットですから≫
「逆に取り回しに慣れなくて大変そうだったけどな。
まあ、フェイトなら3日もしない内に不自由なく振り回せるようになるだろ」
なんせ彼女の才能はなのはに負けず劣らずだ。
訓練時の組み手を一緒にやらせるのも面白いかもしれない。
≪クロノさんへの連絡も二度手間になってしまいましたがスムーズに進みましたし言う事なしです≫
「流石にミッドへ行く許可は下りなかったけどな。
やっぱりはやての身分保護なんかはもう少し先になるか」
≪仕方がないでしょう。現状問題は起きていませんし、クロノさん達がリークしなければ彼女に害が及ぶ事もありません。
今はそれでよしとしておきましょう≫
「まあ、そうか。しっかし本格的にやる事がなくなってきたなあ」
≪鍛錬でもしますか? 一応軽い運動許可は出ているでしょう≫
「俺の鍛錬、軽いって言えると思うか……?」
≪………………すみません、失言でした≫
実際ここの中庭や屋上程度で出来る鍛錬と言ったら俺にとってはかなり軽い運動の部類に入るだろう。
だが、問題になるのは俺にとっての運動強度ではなく、傍から判断される強度だ。
確実にアウトを喰らうと分かっていて実行する馬鹿はいない。
昨日今日と延々説教されてかなり懲りているのだから。
近い内にクロノがテキストやアースラで余ったデバイスパーツを持ってきてくれるらしいのでそれを待つべきだろう。
「ま、どの道今日はもう何もできないだろ。いい時間だしな」
≪そうですね。問題は明日から、ですか。
クロノさんがなるべく早く持ってきてくれる事を願いましょう≫
「だな。夕飯まだかなあ……」
入院の楽しみは食事位だと言った誰かの言葉を改めて実感する事となった。
入院生活と言うのは基本的に暇だ。
しかし、クロノが尽力してくれた事もあり、俺は比較的他の入院患者よりは暇を持て余さずに済んでいるのだと思う。
頼み事をした後即行でパーツやテキストが届いたのにはびびったが。
クロノには何かしらの形で礼を返さねばなるまい。
主にやっていたのはドラッケンの改造と管理局法関連の勉強。
時たま──多分訓練や勉強の合間の息抜きに来ていると思われる──フェイト達がやってきてはアーシャの話をねだってくる。
実際にはフェイトがねだると言うより、俺が一方的に話している状況なのかもしれないけど。
アーシャやシアと関わっていたのは高々5年程度ではあるが、それでも俺の話は尽きる事がなかった。
あの頃、ただの子供として過ごしていた日々は、俺にとって本当に大切な物なのだと実感させられる。
で、入院4日目の今日はと言えばまたしてもフェイトがやってきていた。
それも、昨日までのような気軽な雰囲気ではない。
先日までと異なり、アルフが彼女の横にいないのだ。
妙に緊張しているなと思っていたら、遺言の内容を話しに来てくれたらしい。
コーヒーを出してやるとフェイトはカップを両手で包むように持ち、少し俯きがちにぽつりぽつりと話し始めた。
本当はシアもアーシャとフェイトが別人である事は理解しており、同一視するのは馬鹿らしいという事に最初に気付いていたらしい。
フェイトが目覚めたその時に、決定的に違う、と。
故に、アーシャにそっくりなフェイトを創り出してしまった事を後悔した事。
フェイトの母として振舞ってしまえば、アーシャを諦めてしまうかもしれないと恐怖した事。
それでもフェイトを娘として育てようと努力した事。
フェイトとアーシャの違いを理解していても苛々が抑え切れなかった事。
これ以上フェイトを傷付けないよう自分から遠ざけた事。
犯罪に手を染めるに当たってフェイトが被害者として扱われるようつらく当たった事。
そこにはアーシャの母としてのシアと、フェイトの母としてのシアの深い葛藤があった。
なる程、彼女がこれを自分の弱さと称したのも分からなくはない。
どんなに言い繕った所で、シアがフェイトにつらく当たっていたのは事実なのだから。
しかしそれは事実であって、真実ではない。
フェイトにとっての真実は、彼女がどう受け取ったかによるのだから。
「──それで、こんな言葉でメッセージは締め括られてたんだ。
『あなたはアリシアではなかったけれども……それでも愛していたわ』って」
「……そうか」
「だから……伝えてくれてありがとう、アラン」
途中何度も泣きそうな顔をしながらも、なんとか全てを話し終えたフェイトは嬉しそうに笑った。
嗚呼……ようやく伝わったよ、シア。
不器用すぎてすれ違いを続けていた母子は、一方がいなくなる事でようやく想いを正しく伝える事が出来たと言える。
もう顔を合わせて笑い合う事はできないけど、これは確かにフェイトにとっての救いになり得るのだろう。
2人の事を思い、俺は今1度目を閉じて彼女の冥福を祈る。
彼女はこれを預けるのは弱さだと言ったが、彼女の弱さがフェイトの強さに繋がるのであれば、それでいいと思った。
大丈夫、きちんと見守っていくさ。
この先俺がどんな選択をしたとしても、な。
もう1度、彼女に誓うとゆっくりと目を開く。
フェイトの顔に少しだけ流れた涙は、機械的な光を受け、それでも綺麗に輝いていた。
「そう言やあ……」
「?」
「リン姉に養子に来ないかって誘われてるんだって?」
「えっ!? うん……そうだけど。なんでアランが知ってるの?」
「この前リン姉がメールをくれてな。
事情聴取の進捗状況とか最近のフェイトの事とか色々書かれてたんだ」
話題転換として出したのはフェイトの今後に関する話。
「俺もちょいと今ある人に養子に誘われててな。
同じような境遇だし、相談に乗ってやってくれないかって話だったから」
「そう……なんだ。アランはどうするの?」
「俺は……まあまだ迷ってはいるんだが……」
腕を組んで悩んでますよとポーズをとる。
あの人のやっている事を軽く調べた結果、受けてもいいとは少しだけ考えている。
今後、なのは達をバックアップしていくのに都合のいい立場を手に入れられる事も確かだ。
同時に、そこまでしてフォローに回ろうとするのはいくらなんでも過保護じゃないかと囁く自分もいる。
「誘ってくれたのは?」
「フェイトも多分名前は知ってると思うぞ。ミッドだと結構な有名人だからな。
なんでも俺のばあさんと縁があったらしいんだ」
「あれ? ……でもアランはなのはの家の子だし。
わざわざ養子入りする必要はないよね?」
ああ、フェイトにはその辺りの説明をしてなかったか。
「元々俺がミッド出身なのは知ってるよな?」
「うん。アリシアと幼馴染って聞いてるし。
……あれ? もしかしてアランってなのはと血繋がってない?」
「今更だな。
遺伝的になのはと俺が血の繋がった兄妹ってのはかなり無理があると思うが」
本当に今更だな。
やっぱ天然か。
「そう……だね。今まで気付かなかった私って……」
凹んでしまったフェイトに、軽く失笑。
そこまで気にする事でもないと思うのは俺だけだろうか。
むしろ、それだけきちんと兄妹を出来ていると言う事なのだから、俺にとっては誇らしい事実だ。
つうかこのままだと話が進まん。
「俺が地球に行ったのはな、事故みたいなもんだった。
だから俺こっちじゃ死亡扱いになってんだよ。
でもって向こうの戸籍は偽造だったりする」
「ええっ!?」
まあ、普通驚くか。
「いつまでも偽造戸籍でいるのもあれだし、あの人は打算はあれど基本的に善意で申し出てくれてるっぽいからな。
後ろ盾がある状態ならこっちの戸籍を復活させるのも可能になるし、どうすっかなあ、と」
「でっ、でも! 学校とかあるし……」
「こっちじゃ卒業済みだし、俺。
そろそろ学生やるのも精神的につれえもんがあるんだよ」
「……」
「それに……あ、これはまだなのはとかには内緒なんだがな。
近い内に家を出る予定なんだ」
「!? ……そう、なの?」
俺の言葉を聞いてフェイトは酷くショックを受けたようだった。
無理もない。
フェイトにとって家族とはそれだけ重い話題なのだから。
尤もそれは俺自身にも言える事だ。
ただ、記憶を取り戻した事で今後のスタンスを決めかねているだけ。
「近い内っつってもまだ半年以上はあるがな。
それに別に家を出ても、例え姓が変わっても、俺が高町の人間である事実が消えるわけじゃないぞ。
俺の家族はやっぱうちの奴等だし、俺の帰るべき場所もあそこだと思ってるからな」
「……そっか」
胸を撫で下ろすフェイトを見て微笑む。
フェイトにしてみれば他人事のはずなのに、こんな風に心配してくれる。
本当に優しい子なのだ、この子は。
「まあ……それでも俺はファルコナーの1人息子だからな。
全てを捨てずに受け入れて貰えるなら悪い話じゃないと思ってるよ」
「……アランは、強いね」
「そんなんじゃないさ」
おどけるように肩をすくめた。
そうさ、そんなんじゃない。
ただこの20年間で随分と背負うべきものが増えてしまった。それだけの事だ。
正直、俺の半身であるあいつの忠告を無視する形になるので悪いとは思っているが、それでも背負いたいと思ってしまったのだから仕方がない。
あいつの生きた証を遺せるのは、もはや俺だけなのだから。
「アラン」
「ん?」
俺に呼びかけたフェイトは酷く真剣な顔をしていた。
「やっぱり私はテスタロッサと言うファミリーネームを誇りを持って名乗りたい」
「……つらいぞ?」
今回の事件は中心になった彼女の名を取って、プレシア・テスタロッサ事件、もしくはジュエルシード事件と呼ばれる事になる。
今後テスタロッサの姓は局において犯罪者のものとして認識されていくだろう。
その姓を名乗ればその分風当たりは強くなる。
「もしかしたら……母さんが遺した言葉を聞かなければ、違う選択もあったかもしれない」
「フェイト……」
「それでも私は母さんの……プレシア・テスタロッサの娘だから。
母さんも表には出さないけどそう認めてくれていたから。
逃げちゃいけない……ううん、私自身が逃げたくないんだ」
真っ直ぐに俺を射抜く赤い瞳。
きっと俺はこの子の荷物を背負う事は出来ないんだろうなと漠然と考えた。
けれどどんな形でもいいから支えていこう。
それがシアの願いだったし、それこそが正しい手の平の使い方なのだとあいつに教わったから。
「……フェイトは、強いな」
「そんなんじゃないよ」
先程のやり取りと同じように返してきたので思わずフェイトを見詰めてしまう。
するとまるで悪戯が成功したかのように彼女は笑った。
あー、リン姉からそれとなく説得してくれないかって言われてたが逆効果だったか。
後で謝っとこう。
なんだかおかしくなってきて、彼女に釣られたかのように俺も笑う。
大丈夫。きっとフェイトは曲がらず真っ直ぐに育っていくさ、シア。