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≪トラブルマスターの汚名挽回と言った所ですか≫
「うるせえ。使い方が間違ってるだろ、それ」
≪いえ、あってますよ≫
「あ゛?」
≪キングの場合、トラブルマスターと言う汚名がやはり貴方に相応しいと言う事を証明したわけですから≫
「…………そうかよ」
少々げんなりしながら1205室のベッドの上、窓の外を見遣る。
この部屋は中庭に面しているのだが、すでに窓の外は薄暗いを通り越して夜の帳が下りてしまっていた。
尤もここ、本局附属病棟の中庭は完全に外と言うわけではない。
この庭は入院患者の精神状態に考慮して、出来る限り外の環境へ近づけようと作られているだけだ。
つまり、今俺が見ている夜らしき風景も、日中の眩しい様子までも偽物と言うわけ。
草木を生やしたり小鳥を放し飼いにしているなど、中々に凝った演出がなされている。
実際患者の気分をリフレッシュさせるのに一躍買ってるらしいので、偽物だからどうこう等と言うつもりはない。
重要なのはその外を模して作られた中庭が、完全に夜を示している事。
すでに時間は18時半を回ってしまっていた。
病室についたのが16時、一休みして目が覚めたのが18時だ。
起きてからの30分、何をしていたのかと言うと、
「まさかあんなお偉いさんと話す日が来るとはな……」
突然の来訪者に応対していた、と言うわけ。
俺の呟きにドラッケンが心配そうに言葉を重ねる。
機械音声のはずなのに感情豊かと言うのは、稼動年数が長い恩恵を存分に受けていると言えるのだろう。
≪キングは先の話、どうお考えですか?≫
「まあ、悪い話じゃないんだろうなあ……だけど、それと受けるかどうかは別だろ。
あの人が何を考えて俺に声をかけたのか、何を為そうとしているのか知る必要がある」
仮にもそれなりに地位のある人だ。
先程話された言葉を鵜呑みにするのは馬鹿のやる事である。
≪また調べ物ですか。やる事ばかりが増えていきますねえ≫
「これは完全に俺の個人的調べ物だから仕方ないけどな、他は色々と手伝ってもらってるんだ。文句は言えんよ」
それでも溜息は漏れてしまうものだ。
重く、けれども嫌ではないそれにぽろりと弱音が飛び出した。
「ホント、これからどうすっかなあ……」
特に答えを求めていない問い。
だが、この場には俺以外にも思考力を持つ者が存在する。
≪存分に悩んでください。
どうせ何があっても、私はキングについて行くだけですから≫
≪me, too≫
「くそっ、お前等他人事みたいに言うなよ」
≪そうは言っても結局決めるのはキングですから。
私にできるのはせいぜいが頑張ってくださいと応援する程度の事でしかありませんよ≫
≪master, are you all right?≫
「……タケミカヅチよう、俺ぁもう駄目かもしれん」
本気で心配しているらしいタケミカヅチに、まだ大丈夫だとおどけて返す。
言葉と籠められた感情は真逆ではあるが、それなりの年月俺と共にいた彼は心得たかのようにただ点滅した。
≪キング、タケミカヅチにまで悪影響を与えないでください≫
「そんなつもりはねえよ。と言うか俺がいつ悪影響与えたってんだ?」
≪常に、です。どうして私がこのように口うるさくなったか、忘れてしまったわけではありませんよね?≫
「さてな、そんな昔の事は忘れたさ」
呆れたような相棒の言葉に肩をすくめると、ベッドから飛び降りる。
何やらドラッケンが文句を言おうとしていたが、意識的にシャットアウト。
ついでに調整もしておくかな。
これからの事を考えるのに手は遊んでいるので、フェイトのデバイス調整も同時変更でしてしまう事にした。
サイドボードにおいてあった黄色い三角プレートと工具をベッドに備え付けられた移動机の上に展開する。
この工具は病室に来る前、メンテナンスルームで借りてきた物だ。
どうもクロノの方から話は通っていたらしく、非常にスムーズに借りる事ができた。
よろしくとバルディッシュへ挨拶してから彼をシャットダウンし、解体を始める。
「バルディッシュ・アサルト……強襲型、ね」
それが、このデバイス[子]の名前だ。
なのはと対峙していた時、1度だけフェイトが呟いていた正式名称を脳の片隅から引っ張り出す。
単純だがいい名前だと思った。
尤も、シアの予想以上になのはの近接能力が高かったせいで、先の戦いではカートリッジ以外の機能は殆ど有効活用出来ていなかったようだが。
「いや、運が良かったと言うかなんと言うか」
彼女がフルドライブしていたら、こいつが自壊していたかもしれない。
いじりながら所々、パーツに損傷が与えられているのを見て内心冷や汗をかく。
フレーム強度が大幅に足りなさ過ぎたようだ。
≪随分とまあ無茶な改造ですね≫
「シア本来の専門はエネルギー関係だからしょうがないだろ」
それだけに魔力の通り道なんかはかなり綿密な計算の上で設定されていた。
尤も術者への負担が計算出来ていない所が技術畑の彼女らしい。
このままでは綻びが出てしまう所を特定し、いじりながらエネルギーロスが生まれる場所を調整していく。
かなり綺麗な配列をされていたおかげで、そこまで手間と言うわけでもなかった。
劣化しているパーツは取替え項目にチェックを入れておき、後で一括して交換する事にする。
最後に、このデバイス最大の改造箇所へと目を留めた。
それは俺も時々用いる事がある、ドラッケンに叱られる最大の原因になっているパーツ。
「ふむ……一般的なベルカ式カートリッジシステムだな」
≪一般的と言うと?≫
「古代ベルカの騎士が使ってたカートリッジシステムをそのまま真似た物だ。
基本的にあの頃の騎士は体が出来上がった青年期以上の者が殆どでな。
幼年期の者が使うようにゃ出来てない」
≪えっと……つまり、どう言う事ですか?≫
「カートリッジシステムってのは外部から魔力を補給する事で無理矢理自分の魔力に上乗せして限界以上の力を引き出すシステムだ。
一説には、古代ベルカが滅んだのはこのシステムのせいだって話がある位の代物なんだよ」
ドラッケンの質問に一見関係なさそうな言葉を返す。
それに相棒はしばし明滅を繰り返し、
≪……フェイトさんのような幼い子供が使うには負担が大きすぎる、ですか?≫
「ご名答。俺が使ってるやつの予備は残ってたか?」
≪確かタケミカヅチ用と私用ので1つずつ余っていたと記憶しています。
内わけはリボルバー式とマガジン式が1機ずつですね≫
「充分だ」
これで足りないパーツのリストアップは終了した。
後は交換していくだけなのだが、当然、何が必要かあらかじめわかっていたわけではないので、今回はパーツを持ってきていない。
それをどう解決するかと言うと、
「不破の名においてアラン・F・高町が命ずる」
勿論、魔法で、だ。
指先に魔力を通すと宙に円を描き魔方陣を出現させた。
「────開け、虚空の扉」
何もなかったはずの空間にぽっかりと黒い穴が出現する。
そこへ戸惑いなく右腕を突っ込んで中を漁った。
虚空の扉はシャマルの使う空間魔法、旅の鏡をモデルに作り出した新術だ。
ただシャマル程の汎用性──彼女は目に見える範囲であれば任意で空間を繋げられるらしい。それどんなチートだよと突っ込んでしまった俺を責める奴はおるまい──を持たせる事は叶わなかったので、特定の空間にゲートを繋ぐだけの魔法になってしまった。
尤も俺にとってはそれで充分で、道具の収納に便利なので、術式を構成してからはかなり重宝している。
問題点は、
「高町さんっ、大魔力を感知しましたが大丈────あ……」
「あ……」
発動中外部に漏れる放出魔力がかなり大きいので、隠密行動に向かない事。
なお、この後担当医と看護士長に日付が変わる間際まで説教され、その上入院中の魔法行使禁止令が出てしまった。
……自業自得だけど。
────────interlude
昨日は帰ったらすでにクロノ君が家に来ていて、協力要請という事でユーノ君を本局に連れて行ってしまった。
なんでも本局の無限書庫と言う所の資料を探すのに力を借りたいとの事。
ユーノ君は『僕の力が必要なら』とその頼みを快諾した。
フェイトちゃんの裁判の証人もするから、管理局で過ごす事になったみたい。
私はと言えばその夜の内に、管理局に関わるつもりだと家族皆に説明した。
半年はお兄ちゃんに付いて社会勉強をした後、フェイトちゃんの手助けをする予定だと話した所、思っていたよりも簡単に許可が取れた。
実はこうなる事を予想したお兄ちゃんがあらかじめお父さんに話してたんだって。
そんな事一言も言ってくれなかったのに……
まあ恭也お兄ちゃんは微妙に渋ってたし、お父さんやお母さん、お姉ちゃんも諸手を挙げて賛成してくれたわけじゃなかったけれど。
『なのはがやりたいと言うのならお父さんには止められない。
だけど自分で決めた事ならきっちりとやりとげなさい』
最後にそう言ってお父さんは許可を出してくれた。
なんとなくその言い方がお兄ちゃんを髣髴とさせて、こんな所でも家族としての繋がりを感じ少しだけ笑ってしまったのは秘密だ。
他にも色々言われたけど全部私を心配する言葉で、家族に愛されてる事を改めて実感する事になった。
それでその翌日、つまり今日ですが、
「で? きっちり説明してもらうわよ」
「ア、アリサちゃん。そんな恐い顔したらなのはちゃんも話しにくいよ」
「にゃ、にゃはは……」
翠屋のお手伝いをしていたらアリサちゃん達に捕まりました。
高町なのは、ただ今大ピンチです。
「え、えーっと、なんて言えばいいのかなあ……?」
そう、思い切りアリサちゃん達の前で魔法を使った事をさっぱり忘れてたのだ。
動転していた事やお兄ちゃんの入院、フェイトちゃんとの面会で頭から抜け落ちていたけど、はっきり言って誤魔化しがきかないレベルでばれてしまってるわけで……
一瞬、お兄ちゃんが入院する事になった原因を思い出してしまい眉尻が下がるのを自覚。
それを目聡く見咎めたアリサちゃんが更に私を詰問すると言う正に悪循環。
悪循環と言っていいのかは微妙な所だけど。
思わず顔を逸らしお父さん達の方を見ると苦笑いが返された。
助けてくれるって事はなさそうかな。
でもこれって守秘義務があるんだよね。
話しちゃっても大丈夫、なのかな……?
「はい、これは差し入れね」
「あ、ありがとうございます」
「ありがとうございます、桃子さん」
「ぁ……お母さん」
迷っていたらお母さんがシュークリームと紅茶を差し入れてくれた。
「いいんじゃないかしら」
「え!?」
「あの子ならきっとこう言うわ。
『そんなもんより友達の方が大事に決まってるだろ』ってね」
ウィンクして去っていったお母さんを呆けて見送る。
お兄ちゃんならこう言う、かあ。
確かにお兄ちゃんなら『そんなもん知った事か』とか言いそうなの。
だからいつも背負って、それでボロボロになってしまうのだと言う事実から私は目を逸らす。
一瞬思考に囚われそうになったけど、すぐに私を引き戻す声が聞こえた。
「ふうん、アランさんも関わってるんだ」
「あっ…………もしかして、声に出てた?」
「思いっきりね」
もう無理です。
ごめんなさい、お兄ちゃん。
今頃病棟で暇をしているであろうお兄ちゃんに心の中で手を合わせる。
頭を下げる方が正しいのかもしれないけど、なんとなく手を合わせてしまった。
後で聞いたらこの時お兄ちゃんは、前日に魔法を使った事で看護士の人にお説教されてたらしい。
使った直後も長々とお説教されたのに、それが再発したんだとか。
何事もないのにもう1度お説教されるはずがないから、何をしたのかを問いただしたのだけど、ついぞお兄ちゃんはその時間帯に何をしていたのか教えてはくれなかった。
閑話休題。
「えっと……ここで話すのは駄目だから、お茶飲んだら場所移そうか?」
「うん、わかったよ」
「やっと話してくれる気になったか」
「にゃはは、ごめんね。全部話すよ。最初から、全部」
話してしまおう。
もう、隠し事は限界だし、何より私がアリサちゃん達に嘘をつき続けられないから。
お兄ちゃんには事後承諾になっちゃうけど、多分大丈夫だよね。
「……はあ、そんな事になってたんだ」
「始まりはアランさんなんだ。
あ、もしかしてお姉ちゃんも知ってるのかな、アランさんと仲いいし」
「にゃはは。年が近いからね、お兄ちゃんと忍さん」
私、この2人の順応性を侮っていたかもしれない。
魔法の存在や私達が魔法使いな事、そしてお兄ちゃんの実年齢。
どれもが常識外の事なのだけれど、全てをあっさりと受け入れた2人を見ながら苦笑する。
尤もそう言う目で見てしまえば、今までの私達の言動の大半が納得できてしまうと言うのも大きいのかもしれない。
何度も魔法の実演をさせられたので、納得してくれなかったらこれ以上説明のしようがない。
「つまり、なのはとはやて、ユーノ、アランさんは魔法使いって事ね?」
「うん。はやてちゃんの所にいる3人と1匹もそうだし、あと今は向こうにいるフェイトちゃんって子も」
「もしかして喧嘩してた子って……」
「うん、フェイトちゃん。でも大丈夫だよ、ちゃんと友達になれたから。
フェイトちゃんがこっちに来れるようになったら紹介するね」
「うん、楽しみにしてるよ」
「じゃあここの所なのはの浮き沈みが激しかったのは、魔法関連の事件があったからなのね」
「にゃはは、ごめんね。心配かけちゃって」
「べ、別に……」
アリサちゃんが少し頬を赤くしながらぷいっと横を向いてしまった。
いつもの照れ方。
それに凄く安心する。
「それより! 魔法とかそう言うのでは力になれないかもしれないけど、それ以外だったら力になれるんだからちゃんと相談しなさいよ!」
「うん、そうだね……ありがとう」
受け入れてもらった事が嬉しい。
友達でいてくれることが嬉しい。
当たり前のように支えてくれる事が嬉しい。
そんな嬉しいがいっぱいで、ちょっとだけ涙が出た。
これで私が気にしていた問題の内、1つはあっさりと解決してしまった事になる。
「私がフェイトちゃんを手伝いたいって言ったら、社会勉強した後ならって条件付で許可が出ててこれから準備期間に入るの。
半年はお兄ちゃんについて嘱託魔導師の仕事を見ながら社会勉強なんだって。
これから半年、もしかしたらその後もなんだけど、仕事が入ったら学校に行けない時もあるだろうから、そういう時助けてもらっちゃってもいいかな?」
「当たり前じゃない」
「もちろんだよ」
「アリサちゃん、すずかちゃん……ありがとう」
すぐに頷いてくれた2人に、今私が出来る1番の笑顔を向ける。
すずかちゃんとアリサちゃんが友達で、本当によかった。
────────interlude out
翌朝、思わぬ所でタイムロスしてしまった俺は、昨日やるはずだった作業に入っていた。
とは言え、パーツ交換自体は割とすぐに終わる。
最も気にしなくてはならないのは、実際デバイスを使用した時に何かトラブルが起きないかどうかだ。
待機状態のバルディッシュへドラッケン側からシンクロさせる事で、魔力運用等に滞りが出ない事を確認していく。
どこまで行ってもシミュレーション上の事でしかないが、ドラッケンの高い能力のおかげか、このテストでOKが出たデバイスに問題が起きたと言う話は今の所聞いたことがない。
「っと……完成、で大丈夫か?」
≪私のテストでは問題なしになっていますね。
起動して彼本人に聞いてみたらどうですか?≫
「それもそうだな。えっと……起動はここか」
≪... good morning. condition all green. thanks, doctor≫
「バルディッシュも俺をそう呼ぶのかよ。まあ構わんが」
ベオウルフもドクターって呼ぶしな。
なんかマッドになった気がするから、あまり好きな呼び方じゃないんだが。
自分の手で何かを生み出すと言う作業自体は嫌いじゃない。
こんな所にも影響出てんのかなとつい考えてしまう自分に苦笑した。
記憶を取り戻した直後よりも嫌悪感が減ってきているのは、記憶が俺に馴染んできたからか、もしくはそれさえ俺にとって大切な記憶だからか。
これからどうしたスタンスを取っていくべきなのかも定かでないのに、そんな事を考える。
いかんな、と首を振って思考を余所に回した。
「この際だからドラッケンも強化しておくか。
龍眼のおかげで使える魔力も増えたしな」
≪お願いします。
実は最近いつフレームが耐え切れなくなるか冷や冷やしていたんですよ≫
「そう言う事はもっと早く言いやがれ」
軽口を叩きながらドラッケンをシャットダウンする。
作業がしやすいよう1度展開してから取り掛かった。
まずはフレームの強化からだな。
淀みなく作業を続ける指先。
現在は魔法行使が禁止されているのであまりきちんとしたパーツ交換は行なえないが、簡単な強化と強化すべき場所に当たりをつけておく事位はできる。
「んー……」
手を止めて頭を悩ませるのはビットシステムの部分だ。
ドラッケンは元々ガントレット型なのでベルカ寄りの扱いをする事が多い。
その為長距離砲撃などはあまり得意ではなく、その弱点を補うように付けられているのが2個1対のビットなんだが、
「思ってたより使い勝手が悪いんだよなあ」
結局以前放った大規模砲撃“トルネードブラスト・エクセリオン”も魔力塊を拳で打ち出すという単純な技。
“ナックルバスター”なども近接戦が前提。
今の俺のスタイルは遠くに攻撃を届かせる事の出来る格闘家と言った所か。
……って、あれ?
「ふと思ったんだがなんの問題もないよな……」
相棒が待機状態なので突込みがないのが寂しい。
タケミカヅチは元々無口なタイプなので突っ込む等と言う余計な事をするはずがない。
が、突込みがなくても思考は回るもので、ふつふつと遣る瀬ない思いが湧き上がって来た。
もしかしてビットシステムって要らない子なのか!?
これの為にコア2つ乗せるなんて事までしたのに……
そう考えると徐々に鬱が入って来る。
しかし、そのおかげで非常に優秀な処理能力を誇り、闇の書から防衛プログラムを切り離すのに一役買ったのだから結果的にはよかったのかもしれない。
ビットシステムが要らない子である事に変わりはないが。
「あ、要らねえんなら別物にしちまえばいいのか」
用途を分けて、あらかじめビット側に設定しとけば本体のメモリを喰う量も減る。
組み込むビットの数も増えるし今のようにオールマイティな使い方はできないが、全然有効活用されていない現状を考えればそれで充分すぎるだろう。
さて、それならどんな機能にするべきか。
えっと、移動用は今までもビットを補助に使っていたから2つは必要だろ。
あと欲しいのは防御補助用と砲撃補助用、龍眼の制御用、と。
数が多くなりそうだけど大丈夫か?
パーツ足りなくなりそうだなあ。
マルチタスクの全てを用いて一気に思考へ没頭していく。
これからの事も、記憶の事も、妹分達の事も全て頭から追い出して。
取り出したペンが走るのは真っ白な紙の上。
脳内で生み出された構想が紙の上で徐々に形へなっていく。
この瞬間がたまらなく好きだ。
ああ、そっか……人間って根本的な所じゃ変わらねえんだな。
不意に、何か取っ掛かりのようなものを得た気がする。
その間も俺の手の動きは止まる事がない。
尋常ではないスピードで書きあがっていく設計図。
書きあがってしまえば、あとはそれを形にしていくだけの作業になる。
新システムはともかく、俺の方は1人で考えるとどつぼに嵌っていきそうだ……
退院したら必ず誰かしらに相談しようと決めて、俺は設計図最後の一筆を書き終えた。