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「っ、すまん、助かった」
「ううん、飛べる?」
「なんとかな」
間一髪の所で俺はフェイトに抱えられ離脱に成功した。
爆心地ではシールドを張り、なんとかしのいだと言った様子のなのは。
フェイトはその姿を確認して心底安堵した様子で溜息をつき、次いでバルディッシュを構え銀の魔導師を睨みつける。
「このっ、駄々っ子!」
≪sonic drive≫
「言う事を──」
≪ignition≫
「──聞けぇっ!!」
空莢を撒き散らしながら飛び掛るフェイト。
対して奴は冷静に手を突き出し、
「お前も、我が内で、眠るといい……」
魔導書を開いて、空のページを彼女に向けた。
なんか物凄くやべえ気がすんぞ、アレ!?
「フェイト!!」
「はああああああっ」
慌てて声をかけるも止まれるはずもなく、フェイトの直接攻撃は奴のシールドに阻まれた。
って!?
同時にフェイトの周囲から金の魔力素が立ち昇り始める。
徐々に彼女の身体も金の粒子に包まれ、フェイト自身が──
「「フェイト(ちゃん)!」」
≪absorption≫
闇の書本体の言葉を最後に、フェイトの姿は跡形もなく消えた。
「全ては、安らかな、眠りの内に」
「ぁ……」
いきなりフェイトが消えた事で唖然としてしまうなのは。
本当にクソッタレな状況ではあるが、この時ばかりは俺の魔法ベースがベルカ式だった事に感謝する。
「しっかりしろ、なのは! こいつは今吸収って言った。
ならフェイトはどこかで生きてる! そうだろ、エイミィ!」
『状況確認。……ジンゴ君の言う通りフェイトちゃんのバイタル、まだ健在!
闇の書の内部空間に閉じ込められただけ! 助ける方法、現在検討中!』
「ついでに内部空間に行けるって事は、そこに俺が介入すればベオを引きずり出す事も可能って事だろ?」
『その為の術式解析も今してるよ!』
急いでくれよ、エイミィ。
止まらなくなった脂汗を流すに任せて、ただ宙に佇む奴を睨みつける。
俺の視線にひるんだ様子を見せる事なく、彼女は口を開いた。
「我が主もあの子も、覚める事ない眠りの内に、終りなき夢を見る。
生と死の狭間の夢……それは、永遠だ」
「……永遠なんて、ないよ」
とても静かに発されたなのはの言葉は、こんな状況だと言うのに酷く響いた。
俯いている彼女の表情は窺えない。
ただ、構えられた彼女の愛杖だけが、なのはの戦意が全く衰えていない事を示していた。
「皆変わってく。変わっていかなきゃ、いけないんだ。私も……あなたも!!」
そうして彼女は真っ直ぐに闇の書の意思を見詰める。
その目に乗るのは恐れではなく決意、そして闘志。
だったら俺も格好つけさせてもらおうじゃんか!
「確かにお前は永遠とも言える時を歩んできたんだろう。
だけど! 止まない雨はいつか上がる、長い夜もいつかは明ける!
同じように、お前のつらく悲しい旅も、いつかは終わりを告げる。
俺達はそれを知ってるから、どんなに苦しくても歩いていける。
それが重く苦しいと嘆くのならば──」
右手で重く自己を主張する白銀を構える。
いよいよなのだろう。
身体の中で魔力が尽きかけているのがわかる。
だが、今この状況においては好都合。
魂の奥底で眠っている霊力を無理矢理に引っ張り上げる。
「──今日、ここで、俺達がお前の旅を終わらせよう。
それから始めろ。今度は自分の足で、自分の為の旅を。
その為なら俺達は協力を惜しまない!!」
胃や食道で渦巻く物が今にも溢れ出しそうだが、そいつを強引に飲み下す。
いいタイミングでエイミィから送られてきた介入術式を白銀に奔らせた。
準備はできた。
大切なのは俺の意志一つ。
そうして俺は牙をむく。
俺の相棒がいつもよく見せる、あの姿のように。
必要とされるのは一気に間を詰める速度。
更に、俺の終わりももはやそこまで来ている事がわかっていて。
ならば今ここで切り札を切る事に、なんの戸惑いがある。
「さあ、全てをここから始めよう。
────其は最も古き契約、魂の唄。我が意を以て、とこしえを砕く牙也」
水平に構えた白銀が霧散し、欠片が俺の身体に吸収されていく。
その過程でなのはをちらりと見ると、彼女はしっかりと頷いた。
何物にも変えられない、その信頼が俺の背をしっかりと支えてくれる。
だから、
後顧の憂いはない。
一〇年ぶりに、本来の力を取り戻せ!
「卍解・大牙白銀狼! ────第二幕・白天狼」
ドンと言う音がして、地が揺れる。
暴走の予兆のせいではない、急激に溢れ始めた俺の力のせいでだ。
霊力が溢れ出し、視界が潰される。
次から次へと湧き出してくる力。
抑え込んだりする必要はない。
制御は俺に融け込んだ白銀がやってくれる。
きりりと胸が痛むのは、まだ俺の中に僅かでも魔力が残っている証拠か。
眩しいばかりの光が収まり、俺は静かに目を開いた。
「…………ふぅ」
「ジンゴ……君?」
「ああ、俺だ」
今までより数段声の低くなった俺になのはがおずおずと話しかけてくる。
彼女の反応も無理はない。
今の俺には、ザフィーラのように白銀色の耳と尻尾が生えているのだから。
「なのは……」
「は、はい!」
「外は……任せるぞ!」
「……うん!」
言葉に乗せるのは不安や心配ではなく信頼。
今が戦場の真っ只中とは思えないほど眩しい彼女の笑顔を受けて俺は飛び立つ。
「っ!?」
一瞬で奴の目の前に移動した俺に闇の書の意思は驚き、反射的にその手に持った魔導書を突き出した。
反射的にとは言え反応できたその動きには感心する。
だが、その動きこそが彼女の最大の失敗にして俺の最大の勝機。
俺は真っ直ぐに右拳を突き出した。
「くっ……」
「うっおおおおおおおっ!!!」
咄嗟に張られたシールドを俺自身で処理していく。
即席のバリアブレイク。
俺の作戦上、この行動が最も重要になる。
だから何に変えても、これだけはやり通す。
「バリア──」
ガションと音がしてロブトールが勝手にカートリッジをロード。
霊力と魔力は反発する。
身体への負担よりも作戦の遂行を第一にしてくれたトールは、やはり俺の相棒と呼ぶに相応しい。
「ブレイクッ!!」
反発により爆発的に高まった右腕の推進力。
その流れに逆らわぬよう真っ直ぐに打ち出す。
パキンと軽い音を立て、闇の書の意思のシールドが破れた。
勢いはそのままに、掲げられていた闇の書本体に手を伸ばす。
「返してもらうぜ……俺の、半身をよおっ!!」
触れて、介入する。
一気に負荷のかかった右腕から血が噴出すが、そんな事に気を配るほどリソースは余っちゃいない。
「しまっ──!?」
「ジンゴ君!」
「もらったあっ!!」
外部から強制的に闇の書が稼動する。
書は空白のページを俺に向かって開き、ただ一言を告げた。
≪absorption≫
深蒼に包まれたまま、俺は望んで闇に落ちて行く。