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今の体調じゃ厳しい、よな。
慌てて然るべき今この時に、俺の思考は不自然なほど澄み渡っていた。
どうしてだろうと考える俺と、当然だと頷く俺がいる。
ああ、そうか。
これが──
「燃え尽きる前の輝きってやつか」
どうやらタイムリミットはすぐそこらしい。
だけど、俺はこれしか知らないから──
ただ、前に出る。
少し前より数段動かしづらくなった魔力を操作し、
≪load cartridge≫
「……サンキュ、ロブトール」
≪gravity shield powerd≫
蒼き盾を顕現する。
背後で何やら女王が叫んでいる声が聞こえるが、そろそろ耳も遠くなってきたらしい。
さっきまで普通に行動できていたのが嘘のようだ。
だが納得はできる。
なるほど、俺は魂の力である霊力を燃やす事で動いていたらしい。
「でもさ」
視線を、上げる。
空に在るはずの銀は見えず、徐々に近づいてくるのは桜色の津波。
不思議と、恐怖に身がすくむ事はなかった。
俺にとって桜色は、彼女を象徴する色だからかもしれない。
一つだけ確かな事は、
「一発、殴ってやんなきゃ、駄目だよな」
あいつ等は俺の大事な友達だ。
それを巻き込んだあいつには、
「お仕置きが、必要だよな!!」
≪I think so, too ... let's bigin, my lord≫
普段は無口なトールの力強い声が俺に力を与えてくれる。
気合を入れていた所で、そっと背中に手が添えられた。
「……なのは?」
「駄目だよ、ジンゴ君。一人で頑張ろうとしちゃ。ここには私達もいるんだよ?」
支えられた手がやけに頼もしく思える。
そうだな、と呟いて不敵に口元を歪める事で返す。
「アリサちゃん達は大丈夫。フェイトちゃんが守ってくれる。だから!」
軽い排出音と共に白き杖からは空莢が吐き出されて。
「レイジングハート!」
≪wide area protection≫
展開、同時に衝突。
突き抜けて行くは桜色の奔流。
今の俺達は氾濫する河の真ん中にいる小さな小石で。
普通ならば流されない等と言う事はない。
だけど、たかが小石にも意地がある。
「ぐっ……」
「ジンゴ君!?」
「集中を……切らすなあっ!!」
外からと内、同時にかかってくる圧力に耐える俺から外部情報が遮断されていく。
たった一つ、背中に感じる温かさだけが今の俺のリアルだった。
「ジンゴ君、もう少し。耐え切ればエイミィさんが退避させてくれるから!」
故にその言葉が導線に火を点す。
開いたまま閉じられていた瞼を無理矢理に上げて。
もう力なんてどこにも残っていないはずなのに、シールドを支える右手には際限なく力が籠る。
「ふざっ……けんなあっ!!!」
俺の怒号を最後に、悪夢のような魔力は過ぎ去った。
膝をつき、肩で息をする。
呼吸の度に何かが口から吐き出されるが、そんな事はどうでもいいと思った。
「エイミィさん! 早く、ジンゴ君を!」「エイミィ、転送すんじゃねえ!」
『え、ええっ!? どっち!?』
立ち上がれ。
眼前には、取り返すべき“俺”がいる。
「……無理だよ、なのは。私はちょっとだけジンゴの気持ちが分かる。
きっとジンゴは退かないよ。這ってでもここに戻ってくる」
いつの間にやら隣に来ていた金の少女が首を振った。
まるで、もう諦めましたと言わんばかりに。
よくわかってんじゃねえか、フェイト。
ゆらり、終わりに近い身体を起こし膝を立て、身体を起こす。
どうやら転送されたアリサとすずかの二人には、ユーノとアルフを護衛としてつけたらしい。
いい判断だ。
じゃねえとあいつらが気になって戦えねえからな。
『ジンゴ君、なのはちゃん、フェイトちゃん! クロノ君から連絡。
闇の書の主に、はやてちゃんに投降と停止を呼びかけてって』
「っしゃあ!!」
「って!? ちょっと待ってよ、ジンゴ君!」
気合を入れた端から静止を受けて立ち止まる。
実際には立ち止まると言うよりも、なのはに腕を掴まれただけなのだが。
ふらふらの身体はその場で踏み止まってはくれずにたたらを踏むことになった。
「それは私達がやるから、ジンゴは必要な時まで喋らないで」
フェイトの静かな、それでいて激情を籠めた言葉に俺は声を出さず首肯する。
正直、口を開くと色々な物が出てしまうので、彼女の提案はありがたい。
口元を拭い、空を見上げた。
バリアジャケット、黒でよかったな。
白だったら真っ赤になっちまってんだろ。
実際、白の中着は染まってしまっている。
そんな詮無い事を考えている内に、まずはなのはが、次いでフェイトが念話を始めた。
【はやてちゃん、それに闇の書さん、止まってください!
ヴィータちゃん達を傷つけたの、私達じゃないんです】
【シグナムと私達は──】
「我が主は……」
いつの間に移動していたのだろうか。
気付けば彼女は声の聞こえる範囲に浮いていて、酷く悲しそうに語り始める。
「この世界が、自分の愛する者達を奪った世界が……悪い夢であって欲しいと願った。
我はただ、それを叶えるのみ。主には穏やかな夢の中で、永遠[とわ]の眠りを」
それを聞き、フェイトたちの表情が驚愕から真剣なものへと変化する。
彼女はそんな二人の様子を気にした風もなく、言葉を続けて。
「そして、愛する騎士達を奪った者には──」
彼女の足元にベルカ式魔方陣が展開され、咄嗟に俺達は身構える。
しかし、何も起きない。
「──永遠[とわ]の闇を!」
「闇の書さん!」
「……お前も……その名で、私を呼ぶのだな」
「あ……」
なのはの呼びかけに彼女は悲しみをその顔に雑じらせ、それから吹っ切ったように目を閉じた。
同時に地面から触手と言うには機械的な、しかしそうとしか表現のしようがない物が地揺れと共に何本も飛び出してくる。
「くそっ」
避けようとしても俺を狙ってきているのは三本ほど。
なのは達も似たような状況で、結局絡め取られてしまう。
微妙に腹などが圧迫されているので気分が悪い、と言うよりも最悪だ。
次に目を開いた瞬間には銀髪の女はすぐそこにいた。
「それでもいい。私は、主の願いを叶えるだけだ」
いったい何がかは俺には分からない。
だが、その言葉は確実に、なのはの逆鱗に触れた。
「願いを叶えるだけ? そんな願いを叶えて、それではやてちゃんは本当に喜ぶの!?
心を閉ざして、何も考えずに、主の願いを叶える道具でいて……あなたはそれでいいの!?」
「我は魔導書……ただの、道具だ」
「だけど、言葉を使えるでしょ? 心があるでしょう! そうでなきゃおかしいよ。
本当に心がないんなら……泣いたりなんか、しないよ!!」
そう、確かに目の前の女性はその頬に涙を伝わせて。
なのはの激白に、いやいやするよう彼女は目を閉じる。
その姿が妙に俺の癪に障った。
そしてその、
「この涙は、主の涙。私は道具だ。悲しみなど……ない」
「ふ……っざけんじゃ、ねえ!! トール!!」
≪break field≫
「バリアジャケットパージ!」
≪sonic form≫
強情さが導火線を燃やし尽くす。
俺の術式介入とフェイトの魔力放出。
同時に行う事で、触手は俺達を手放さざるを得なくなり、
「悲しみなどない?
そんな言葉を、そんな悲しい顔で言ったって誰が信じるもんか!!」
「あなたにも心があるんだよ。悲しいって言っていいんだよ?
あなたのマスターは、はやてちゃんは、きっとそれに応えてくれる優しい子だよ」
「てめえが思い込むのは勝手だがなあ、その考えが、てめえの主や守護騎士達、ついでに俺の半身も侮辱してんだってなんで気付かねえ!
思い込む前にまずはやての話を聞きやがれ!!」
「だから、はやてを解放して。武装を解いて! お願い!!」
彼女は叫ぶ俺達をじっと見詰めた後、ついと視線を横にずらす。
なんだ……?
思った瞬間オレンジの魔力柱がいくつも地面から突き上げるように飛び出してきた。
一つ一つの太さはそこまでではないが、確実に移動は制限される。
っ、本格的にやばいな、これは。
「早いな。もう崩壊が始まったか。私もじき意識をなくす。
そうなれば、すぐに暴走が始まる。意識のある内に、主の望みを……叶えたい」
≪blutiger dolch≫
くそっ、聞く耳持たずってやつかよ!?
奴が手をかざすと俺達の周りに赤黒いダガーがいくつも出現する。
それに籠められた魔力量を見て、俺は冷や汗を流した。
ワンアクションで顕現したくせに、各々のダガーには尋常ではない魔力量が籠められている。
まずっ、今の俺じゃ防御手段が!?
スローモーションで視界が流れる中、あいつの声だけが妙にはっきりと聞こえた。
「闇に────沈め」