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槌と白銀がぶつかり合う。
こちらは魔力で強化しているとは言え、元になっている武器が日本刀。
あまりがっつり組み合うのは得意ではない。
力の向きをずらし、彼女の攻撃を受け流す。
返す刀で左薙に切りつけるも避けられた。
仕方なしに下段に構えようとするが、向かい来るそれに気付いて瞬歩で大きく後退。
今まで俺がいた所を豪快な風切音と共に鉄槌が通り過ぎていった。
やっぱかなりの手練だな。
すぐに潰して他の援護に行くってのは難しそうだ。
これで一戦かました後だってんだから恐れ入るぜ。
内心をおくびにも出さず口を開く。
「直情的ですぐ頭に血が上る。
恐らく君の性格によるものか、動きも直線的なものが多く、突破力こそ高いが比較的読み易い」
「ああっ? なんだてめー、喧嘩売ってんのか?」
「む、最初に喧嘩を売ってきたのは君の方だったと記憶しているが……」
「ぐ……」
「だが、良い騎士だ。問おう、少女。君の名は?」
互いに名乗りもせずに始めてしまったのは無粋に過ぎただろう。
今までの攻防から考えるにこの騎士に俺が負ける事は余程の事があったか、あちらの切り札が戦況をひっくり返すようなものでない限りないと判断。
少なくともあちらがカートリッジを使った所でひっくり返せるようなものではない。
経験はとんとん、実力的にもそう差はないような気がする。
だがあちらは疲労が溜まって常の動きができておらず、その差が大きい。
ま、この程度の遊び心なら許されるよな、多分。
時間稼ぎにもなるし。
「てめーみたいな小僧に少女なんて言われる筋合いはねー」
「だが、すでに気付いているはずだ。俺の見た目と腕がつり合わん事位は。
尤もそれは君にも言える事、ある意味で我々は似たもの同士か。
君達ベルカの騎士がいったい何年生きているかは知らん。
が、こと戦闘経験において、俺が君達より劣っていると言う事は……ない」
俺の剣は基礎があるにはあったが、殆どが戦場での叩き上げ。
俺の剣が完成するよりも前に、教えてくれていた親父が亡くなってしまったからだ。
しかしそれ故に同じく戦場を駆け抜けてきたような猛者達には、俺の剣が通ってきた道のりが理解できるはずだ。
目の前の少女はその猛者に当たる。
「おめー……何者だ?」
「言っただろう、ジンゴ・M・クローベル、と。
今は時空管理局でしがない執務官などをやっている」
「そう言う事を聞いてるんじゃねー。
まあいい、あたし達の事はアストラから聞いてんじゃねーのかよ?」
「なに、君達が知り合いというのもさっき聞いたばかりだ。
それに、他人から聞いた名乗りなど意味がないとは思わないか?」
俺の言葉に彼女は不意を打たれたように瞬き、次いで楽しげにくっと口元を歪める。
その笑みは酷く獰猛で、どこか手の中に納まっている俺の相棒を髣髴とさせた。
「おもしれー。あたしは管理局は大嫌いだが、おめーみたいな馬鹿は結構好きだぜ」
「む……奇遇だ、気が合うな。
俺も局はあまり好きではないし、君のような人物には好感が持てる」
その真っ直ぐな人柄とか、な。
「管理局のエリート様がそんな事言ってもいいのかよっ」
「思想と役割は別物。そう割り切った上で必要だから俺はここにいる」
「はっ、上等! あたしはヴィータ、鉄槌の騎士ヴィータだ!!」
≪shmalbefliegen≫
「王の剣環が主、ジンゴ・M・クローベル、推して参る!!」
名乗りと共にヴィータが鉄球を四つ宙に浮かべる。
彼女の槌が振り下ろされると、鉄球が俺に向かって打ち出されてきた。
上空に避けようとし、鉄球を目で追って気がつく。
誘導制御!? まさか、ベルカ式でか!?
どんな効果が付与されているのか分からないので、すぐさま迎撃を選択。
魔力弾を形成する暇も、詠唱している時間もない。
「破道の三十一・赤火砲」
俺を中心として同心円状に広がる炎を尻目に脱出。
魔力がぶつかり合い、爆発したのを確認した所で彼女の姿を見失った。
「上か!」
「うおおおおおっ」
勘任せ、乱暴に白銀を振るう。
魔力付与された槌は重いが、それだけだ。
途中刃の角度を変えて力の向きを逸らしつつ術式を起動。
「トール!」
≪gravity shield≫
目と鼻の先で突然出現したシールドに面食らう彼女に、俺は不敵に笑いかけた。
「こう言う使い方もありだろう?」
≪burrier burst≫
「うわぁっ」
爆発するシールド。
直撃に見えたが彼女は一瞬の隙に身を引いたらしい。
そのまま力に逆らわずに後退する事で受け流される。
うまいなと舌打ちしようとしたその時、ユーノから念話が入った。
【転送の準備は出来てるけど、空間結界が破れない。アルフ!】
【こっちもやってんだけど、この結界、滅茶苦茶固いんだよ】
【ちっ、ベオウルフ!】
ヴィータの槌を左後方へ捌きながら戦場を移動する。
徐々に、ベオ達の方向へと。
【なんでしょう、主?】
【お前はアルフ達と一緒に結界にかかれ。
俺達が一度抜いたせいで結界の強化具合がかなりのものになってるみたいだからな】
【しかしそれでは主が二名を同時に……】
【嘗めるなよ、ベオ。「剣環の王を誰だと思っている!」】
≪compression≫
魔力放出、集中、集束、固定、顕現。
一気に形作られた白銀を囲む深蒼の魔力刃。
力任せに振るって飛び掛ってきたヴィータをベオと相対していた男性の所まで弾き飛ばす。
男性は飛んできた彼女を受け止めたたらを踏んだ。
「行け!」
≪はっ≫
すぐに体勢を整えてきた二人に、己が半身を背にして立ちはだかる。
ベオはすぐさまユーノ達と合流しに場を立ち去った。
ヴィータは俺を睨みつけ、酷く不満げに吼える。
「つかよ、てめー一人であたし等の相手をするつもりか?」
「なに、不満は言わせんよ。
そこの使い魔……否、ベルカでは守護獣だったか……彼にも、な」
蒼銀髪の男性は無言のまま拳を構えている。
特に俺に対して言う事はないらしい。
対話よりも拳を、と言うのは俺にとっても分かり易くていい。
「うおおおおおっ!」
「おりゃあああああっ!!」
「はっ」
襲い掛かってくる二人、最も効率のいい剣閃を思い描き、気合を籠めて刀を振りぬいた。
二人分の攻撃、なんとか凌げる事は凌げる。
だが、かなりの負担である事は確かで、正直時間稼ぎと割り切ってなければ挫けそうだ。
ベオがあちらに合流したって事は、あと一〇分もあれば結界は抜けるはずだ。
だが……
ちらりと剣士と打ち合っているフェイトの方を見やる。
徐々についていけるようにはなっているが、明らかにフェイトが劣勢だ。
無理もない。あの桃色の剣士は恐らくこいつらの中で最も技量が上だろう。
あと一〇分……持つか?
思考した瞬間、巨大な魔法の発動を感じた。
方向は戦場から少し離れたビルの屋上。
目は逸らせない。
そんな事をした瞬間に、俺は打倒されるだろう。
飛んできた拳を左回転で避けて、一瞬だけ視界にビルを入れる。
【フェイトちゃん、ジンゴ君、ユーノ君、アルフさん、ベオウルフさん】
聞こえるのは弱々しくも力強いなのはの声。
ユーノが展開していたはずの彼女の身を護る結界を解き、馬鹿でかい魔方陣と共に己が愛杖レイジングハートを構えていた。
【私が結界を壊すから、タイミングを合わせて転送を!】
【なのは……】
【なのは、大丈夫なのかい?】
【あと一〇分もあれば結界を破れるはずなんだぞ!】
【駄目だよジンゴ君。
ジンゴ君はまだ大丈夫かもしれないけど、もう皆もたないよ。
大丈夫、スターライトブレイカーで撃ち抜くから!】
だけど、今はなのはを護ってくれている結界がねえんだぞ!?
こっちの言い分を流して、壊れる寸前なのか、明滅しているレイジングハートを彼女が構える。
発射シークエンスに入ったのを見咎めて、ヴィータと守護獣がそれを阻止せんと動き始めた。
くそっ、もう後戻りは出来ねえぞ!
「させん!!」
二人となのはのいるビルの間に身体を割り込ませる。
今俺に出来るのはこいつ等を足止めして、彼女に無傷でスターライトブレイカーを撃たせる事だけ。
二人をなのはとは逆方向に蹴り飛ばした時、それが目に入った。
「な!? しまった!!」
彼女の胸から、腕が生えていた。
戦闘にかまけてこれを忘れるなんて、なんて迂闊!
こいつ等の狙いは最初から……
どうする、と思考を高速でまわす。
射・砲撃などの魔法や鬼道は使う事が却下。
ピンポイントで敵の腕だけに射撃系をぶつけるのは至難の業だ。
特に俺は射撃特性がそう高いわけではないので難易度は更に上がる。
鬼道系は大雑把な攻撃が多く、なのはを巻き込んでしまう可能性が高い。
なら、今俺に出来るのは……
右手を挙げ、頭上に真っ直ぐ白銀を掲げる。
視線の先では、なぜかなのはの胸から一度腕が抜かれ、再び同じ腕が生えてきた。
その手の中に、光り輝く彼女の魔力源が見える。
「白銀ぇ!」
≪心得た!≫
威力は抑え、代わりに刃を細くする。
細かい制御が出来るように、かつ鋭く切り裂くように。
「喰い千切れ、牙狼――」
≪天衝≫
白銀の先から斬撃が飛んでいく。
狙い違わず、人のものを掠め取ろうとしていたその手に的中。
傷を負ったその手が怯み、なのはの胸から引き抜かれた。
苦しげな声。
呻きながらも彼女は己が愛杖を振り抜いて。
「スターライトブレイカーー!!」
その姿は、思わず見とれてしまう程美しかった。
なんと言う皮肉だろうか。
戦場の中でこそ、彼女の才能は輝く。
それは、普通の子でいて欲しいと願った両親の想いとは逆方向の、しかし確かな彼女自身の才能だ。
そんな詮無い事を考えてしまったせいだろう。
俺は、今自分がどこにいるのかをさっぱり忘れてしまっていて。
「あたし等を無視するんじゃねーっ!!」
「がっ!?」
衝撃。
後頭部に振るわれたそれに、俺はなすすべもなくぶっ飛ばされた。
「ぐ……ぅ……」
ビルを瓦礫に変えながら吹っ飛ばされた俺は、不時着した廃ビルでふらつく頭を押さえながら立ち上がる。
くそっ、なんて無様だよ。
まだここは戦場だってのに。
慌てて戦線復帰しようと自分の突き破ってきた穴からビルの外を窺うと、
「……なんだ?」
撤退、していく?
四筋の魔力光を残して敵が逃走を始めていた。
しまった!? このままじゃ骨折り損だ。
「エイミィ!」
『今、転送先を追ってる!』
優秀な管制官の言葉に安堵しながら、移動を開始する。
あちらも気になるが、今はなのはの状態を確かめるのが先決だ。
ふらふらと飛行魔法を行使しながら彼女のいるビルに降り立つ。
彼女はと言えば、レイジングハートに寄りかかり、かろうじて立っている状態だった。
「なのは!」
「……なのは、無事か?」
「ユーノ君、ジンゴ君……」
弱々しいながらも笑みを見せたなのはに少しだけ安心する。
と、同時に膝の力が抜けてその場にへたり込んだ。
どうにも頭がふらつくのですぐには立てそうにない。
「ジンゴ!?」
「……フェイト、か?」
血液で視界が遮られているせいか、前が上手く見えない。
ぐっと拭うと、後頭部に痛みが奔った。
ああ、頭割れてんのか。
通信ウィンドウを手先の感覚だけで起動。
そのままアースラへと繋ぐ。
普段ならこっちをモニターしているはずのエイミィは、今は追跡で忙しいと考えたからだ。
「こちら……本局執務官、ジンゴ……M・クローベル。
医療班の……要請、を……」
『こちらアースラ艦長リンディ・ハラオウン。
すぐそちらに送ります。だからお願い、今はしゃべらないで!』
「りょーかい……ユーノ、なのはの、回復、を……」
「ジンゴも酷い怪我だよ!?」
ユーノが叫ぶが、気にする必要はない。
なぜなら、すぐそこまで俺の半身が戻ってきているからだ。
「俺は……大丈夫、だ……ベオ……」
≪はっ≫
一度跪いた彼は、そのまま右手を伸ばしてきて。
俺は定まらない視界の中、その手に自分の手を重ねる。
くそっ、くらくらしてきた……
「≪ユニゾン・イン≫」
ユニゾンで増えた魔力を止血に回す。
応急処置の上、無理矢理止血しているのでそれなりに反動もあるが、このまま血を流し続けるよりはずっとマシだ。
「早く。途中で、止めたとは言え……強奪されたんだ。
リンカーコアは、生命力の……」
「ジンゴ、わかったからもうしゃべらないで!」
ユーノの淡い翠色がなのはを包む。
よかったと目を瞑ろうとした所で、ポウッと頭に温かいものを感じた。
顔を上げると、鮮やかな金の髪が目に入る。
金の持ち主、フェイトは一生懸命な表情で俺に手を当てて、魔力を送り込んでくれていた。
「あんまり治療系は得意じゃないけど……」
「あたしも手伝うよ」
心配そうにこちらを見てくる二人を安心させたくて、笑みを作って見せる。
「ありがと……な」
風が吹きすさぶ屋上。
学校と似たような屋上なのに、先日とは異なり噛みしめる感情は正反対のもので。
俺達は局員が到着するまで、冷たい敗北の風をその身に受け続けていた。