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「また……全てが終わってしまった……いったい幾度こんな悲しみを繰り返せばいいのだ」
静かなその声は、音が小さいはずなのに確かに俺達の耳に届いて。
「我は闇の書……我が力の全ては……」
彼女が右手を掲げる。
その手の先にはなのはのスターライトブレイカーよりも大きな闇色の魔力球。
≪diabolic emission≫
「主の願い、そのままに……」
まずい!!
「ジンゴ君、飛べる?」
「なんとか……な。飛べねえって言ってる場合じゃ、ねえだろ!」
「デアボリック……エミッション」
詠唱が終わり、魔力球が上空に放たれる。
そのまま大きく膨らんで、
って!?
「空間攻撃!?」
「そう言えば主か管制人格は広域型だって予想が出てたな……」
「闇に……染まれ」
「二人共私の後ろに!」
≪round shield≫
咄嗟になのはの張ったシールドの影に入る。
闇色の魔力が着弾し、目に入るのは苦しそうななのはの顔。
それを見ながらもなんとかシールドの効果範囲から外れぬように位置を維持する。
……きっつう。
眉を寄せた所で左側から引っ張り上げられた。
「大丈夫?」
「悪い、フェイト。助かった」
一旦撤退だな、こりゃ。
俺がいちゃ二人が思いっきり戦えない。
魔力の流れに逆らわずに移動を開始する。
攻撃が止んで俺達の姿が晒される前に、ビルの陰へ隠れる事に成功した。
「なのは、ごめん。ありがとう」
「なのは、右手平気か?」
ビルの陰で右手を抱えるなのはの顔を二人で覗き込む。
彼女は空元気だと分かる笑みを見せて、それでも大丈夫と言った。
ふと、覚えのある魔力を感じ、首を回す。
ここから更に遠いビルの屋上、クロが仮面の男達を拘束しているのが見えた。
魔力が拡散し、二人の姿が変化する。
変身魔法、か。
考えれば当然の事だった。
俺達の誰かに近しい者が正体なら、姿を誤魔化すのは必然だ。
現れたのは猫の耳と尻尾を生やした女性二名。
似たような容姿に、猫……だと?
「黒幕は、ギル・グレアムか……?」
口に出してからしまったとなのは達の様子を窺う。
フェイトの監督官は提督だったはず。
なのはとも面会の時顔を合わせていると言う話だったから、今の言葉が聞こえてしまえば彼女達に余計な動揺を招きかねない。
幸い俺の呟きは闇の書の方に集中している彼女達には聞こえなかったようだ。
ほうと人知れず溜息をついた。
「ジンゴの言ってた通り、あの子広域攻撃型だね。
避けるのは難しいかな……バルディッシュ」
≪yes, sir. barrier jacket lightning form≫
フェイトは装甲が薄くはあるが、ソニックよりはましと思われるデフォルトのジャケットに戻すと、なのはへ預かっていたレイジングハートを返した。
「ん…………はやてちゃん……」
心配そうに闇の書を見詰めるなのは。
と、こちらもやはりよく知っている魔力が近付いてきた。
「なのはっ、ジンゴッ」
「フェイト!」
「「あ……」」
「ユーノとアルフ、か」
これで戦力は充分とは言えないけど、大分ましになったか。
肩の力を少し抜き、俺も闇の書の方を向く。
同時に闇色の魔力が薄く辺りに広がった。
たった今展開された魔法を分析したらしいアルフが、
「前と同じ、閉じ込める結界だ!」
「やっぱり、私達を狙ってるんだ」
「今、クロノが解決法を探してる。援護も向かってるんだけど、まだ時間が……」
ユーノのこの言い方じゃあんまり期待できそうにねえな。
俺の隣でフェイトはユーノの言葉に厳しい表情を見せ、
「それまで私達でなんとかするしかない、か」
「だな。にしても……」
さっきから一言も発言してないと思っていたら、なのはは妙に思いつめた顔で闇の書の方を見詰めていた。
心配したフェイトがかけた声に、一応は大丈夫と答えるがとても大丈夫には見えない。
ふと、遠く、闇の書の方で魔力が急激に集っていくのを感じる。
「翼?」
銀髪の魔導師の背中に生えていた二対の羽が大きくなり、羽ばたいた。
「……ばれたか?」
「みたいだね。移動しなくちゃ、かな?」
「ジンゴ君は……」
「足手纏いってんだろ? ……わかってるさ」
軽く肩をすくめてみせる。
内心穏やかではないが、仕方ない事なのだろう。
今だけは割り切る。
最後に、この感情を爆発させる為にも、腹の底へしまいこんだ。
「じゃあエイミィに……」
「ストップだ、フェイト。少なくとも結界内からは撤退しないぞ、俺は」
「でもあんた、凄い汗だよ?」
アルフの言う通り、俺の額は冷や汗だらけ。
今はなんとか小康状態を保ってはいるが、少しでもバランスが崩れればまたさっきと同じ状態になるだろう。
だけど、
「……一度覚醒したリンカーコアは元に戻せない」
「ジンゴ、どう言う事?」
「どの道あいつからベオウルフを取り戻さなきゃ、俺は長くねえって事さ」
「そんなっ!?」
悲痛な声を上げるなのはの頭をぽんぽんと軽く撫でる。
右目を塞いでいた血液を拭い、空をにらみつけた。
よかった、出血は止まったみてえだな。
「退けねえよ。まだ一回しか会ってねえけど、はやては俺の友達だ。
俺の半身もあそこにいる」
支えてくれていたフェイトの手を離す。
宙の霊子を固めて、気持ち、奴に対峙するように立った。
自然、口元が歪み、笑みの形を作り出す。
「俺は退かねえぞ。泣いてる奴は放っておけねえし、何よりも──」
右手を挙げる。
分厚い雲に覆われた向こう、星空を掴むように握り締める。
体内バランスの微調整……完了。
「取り戻すんだ! あの平和な日々を。そうだろ? 白銀!!」
≪無茶苦茶言いやがるな、俺のご主人様はよぉ!!≫
ずしりと掌に感触。
口は悪いけどこいつは俺の最高の相棒だ。
刀を抜く。
新規でバリアジャケットを展開。
さあ、足手纏いなりの戦いを始めよう。
「行け!」
「で、でも!?」
「大丈夫だ。戦闘にゃ参加しねえよ。
隙を突いてあいつの術式に介入、ベオウルフを取り戻す。
それだけだ。簡単な仕事だぜ、当然いけるよな、白銀?」
≪てめえは誰に聞いてやがる。この白銀様を嘗めんじゃねえよ!≫
その答えに満足してなのは達の方へ目を向ける。
彼女等は逡巡した後、それを吹っ切るように頷いた。
「途中退場はなしだよ、ジンゴ」
「ユーノ、そんな事俺がするわけねえだろ」
「どうかねえ。あんた、プレシアん時寝てたじゃないか」
「ありゃすぐに起きて参戦しただろうが、アルフ」
「ジンゴ、無理はしないで」
「無茶はするが、無理はしねえよ、フェイト」
全員の視線がなのはに集中する。
それを受けて彼女は一瞬たじろいだが、俺の前に来て、白銀を持つ俺の手に自らの手を重ねた。
「無事に……帰ってきてね」
「当たり前だ!
……今頃シロさん達が翠屋でてんやわんやしてるだろうよ。
さっさと終わらせて……帰るぞ!」
「うん!」
力強く首肯し、四人が飛び立っていく。
それを見送り、皆が視認できるギリギリの所まで遠ざかってから俺は宙に膝をついた。
「……とは言え、どうしたもんか」
≪いきなり弱気だな、ジン≫
「まあ、な。正直ここまできついとは思ってなかったからな。
いかにあいつに頼りきりだったかがよく分かるってなもんだ」
やれやれと立ち上がり、地面に降りる。
空中の方が移動速度は速いが、自分で体内バランスを調節している以上無理はできない。
霊子を固めている間に攻撃でもされれば、驚いて再び体内バランスを崩しかねないのだ。
つまり、そうなった瞬間、俺は墜ちる事になる。
それを考えたらまだ地を這っていた方が安全性は高い。
ゆっくりと、だが確かな足取りを持って移動を開始。
とりあえずは近付かねえとな。
上空でぶつかり始めた色々の魔力光を見ながら走り出した。
貧血で頭がふらつくが、この際無視だ。
≪まあ、なんとかなるだろうよ≫
「気楽に言ってくれるな」
≪ったりめえだ。この程度、軽くクリアしてもらわねえとな。
お前は、俺の…………主、なんだぜ?≫
「っ……ああ、なんとかしてやるよ!」
いつ何時も変わらぬ相方に笑みを深め、目指すは戦場真っ只中。
タイムリミットがいつ来るかなんてわからないけど、なんとなく、なんとかなるような気がするのは多分こいつがいるからだろう。
だったら、ちったあ格好つけとかねえとな。
半身を取り戻す時、あいつの前に胸を張って立てるように。
俺はただ、誰もいない街を走り抜けていった。