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「剣[つるぎ]の騎士シグナムが魂、炎の魔剣レヴァンティン!
刃と連結刃に続く、もう一つの姿」
レヴァンティンの柄尻に鞘を繋げ、カートリッジシステムが唸る。
弓状に変化したデバイスに魔力の弦がかかり、シグナムがそいつを引き絞ると矢が出現した。
「駆けよ、隼!」
≪sturm falken≫
「フェイト・テスタロッサとバルディッシュ・ザンバー、行きます!」
シグナムの矢が敵の防御膜を撃ち貫くのを見届ける事なく、フェイトの声が響く。
カートリッジの排出と共に振り回された巨大な剣は、余波だけで再生した触手共を薙ぎ払った。
≪jet zamber≫
振り下ろされた斬撃はバリアを抜いて奴の左半身を切り裂く。
抵抗しようとしたのだろう。
すぐさま復活してきた触手が闇色の魔力弾をその先に装填。
だが、それを許すような生易しいメンバーはここに存在しない。
「盾の守護獣ザフィーラ。攻撃なんぞ……撃たせん!!」
彼が腕を振るうと海中から何本もの巨大な棘のようなものが現れる。
棘は正確に、攻撃しようとしていた対象を貫き、すぐにシャマルが己が主の名を呼んだ。
それを受けてはやては半ば叫ぶかのように詠唱を始めた。
「彼方より来たれ、宿木の枝 銀月の槍となりて────撃ち貫け!」
展開された白の魔方陣には輝く六つの魔弾。
覚醒直後でこれだけの大魔法を撃てるとは恐れ入る。
「石化の槍、ミストルティン!!」
発射されプログラムを貫いた槍は、己が触れた所から侵食するように奴を石化させていく。
石化が全体に至り、少しは時間が稼げたかと思った瞬間、頭部らしき場所でモニュメント化していたリインを模った何かが崩れ落ちた。
そのまま再生を繰り返し、石化した部位は全てなくなったが、
「……グロ」
「うわっ」
「なんだか、凄い事に……」
シャマルの言う通り、もはや元の形を留めていない。
闇はここに来て、完全なる化け物と化した。
『やっぱり並みの攻撃じゃ通じない。
ダメージを入れた傍から再生されちゃう!』
「だが攻撃は通ってる。プラン変更はなしだ!
行くぞ、デュランダル! ジンゴ、前衛は任せた!!」
≪o.k. boss≫
「あいよ。つってももう大した事はできねえけどな」
ま、出番がなくならなかっただけよしとしようか。
「飛ぶ斬撃を知っているか?」
俺は右肩に白銀を担いだまま左手を前へと掲げる。
少しばかり負担はあるが、これがギリギリ状態にある今の全力だ。
「吠えろ白銀、砕き尽くせ!!」
≪ジン、早く寄越せ、力を……よおっ!!≫
「蒼・天──」
鉄塊を力いっぱい振り下ろす。
刀身から吐き出されるのは深い深い蒼の魔力刃。
真っ直ぐに防衛プログラムへ向かったそれが着弾する瞬間、
「──爆・砕!!!」
≪graviton burast!≫
爆破。
生み出された重力が爆散したプログラムの破片をかき集める。
一瞬だけ作り出されるのは闇色の澱み。
「悠久なる凍土、凍てつく柩の内にて、永遠の眠りを与えよ」
クロの詠唱と共に海が凍りついていく。
凍結がやみに接触する直前に、トリガーワードが叫ばれた。
「凍てつけ!」
≪eternal coffin≫
全てを停止させる永久なる氷。
それさえもアレを止めておけるのはほんの僅かな時間だけ。
だが、それだけで充分すぎる。
遥か上空で待機していた三人から気合の入った声が上がる。
それを耳に入れながら俺とクロは効果範囲外へと大きく下がった。
≪starlight breaker≫
ただよう大量の魔力素が、桜色に巻き込まれ集束していく。
破壊力は類を見ない、彼女の必殺技。
「全力全開! スターライトオオォォォォ──」
金の死神は展開した魔方陣に絶対の自信を持って、そのザンバーを振りかぶり、
「雷光一閃! プラズマザンバー──」
仮初めだった主は真なる者として、かつて自分の従の一部だったものに、
「ごめんなあ……おやすみなあ……」
この上ない別れを告げる。
「響け! 終焉の笛、ラグナロク──」
全てを終えて、また新しく始める為に。
その撃鉄が振り下ろされた。
「「「ブレイカーーーーーーッ!!!」」」
馬鹿みたいな魔力砲撃が三方向から闇に襲い掛かる。
ほんの僅かな時間、防衛プログラムは衝撃に耐えたが、結局受け止めきれずに大爆発を起こした。
あとは、ユーノ達とアースラの仕事だ。
シャマルが展開する旅の鏡、その中を探っていた彼女はかっと目を見開く。
「本体コア、露出。捕まえ……たあっ!!」
「長距離転送!」
「目標、軌道上!」
翠とオレンジの魔方陣がコアを挟み込む。
そのまま、
「「「転っ送!!」」」
闇の核は空の上へと消えた。
全員が固唾を呑んで空を見上げる。
ここから何か状況が見えるわけではない。
ただ、見上げずにはいられなかったのだ。
長い長い時間が過ぎる。
実際には五分も経っていなかったのかも知れない。
それでも、俺にはその時間が永遠にも感じられた。
「……頼むぜ、エイミィ、リン姉……」
祈るように空を見詰める。
分厚い灰色の雲に覆われた空は俺の祈りに応える事なく、だけども白い光がぽつぽつと現れ始めて。
「…………雪?」
未だ結果が出てきたわけではない。
なのに、何故だか絶対大丈夫な気がしてきた。
そこへ、待ち侘びていた常と同じ彼女の明るい声が飛び込んでくる。
『効果空間内の物体、完全消滅! 再生反応なし!
アースラはこれから準警戒態勢を維持して、念の為反応空域の観測に入ります!』
同時にわっと歓声が上がる。
俺はようやく肩の力を抜き、すぐ隣にいたクロと健闘を讃え合った。
『と言うわけで、現場の皆、お疲れ様でしたあ! 状況、無事に終了しました!!』
全員が喜び合う中、エイミィの言葉が続く。
『この後まだ残骸の回収とか、市街地の修復とか色々あるんだけど、皆はアースラに戻って一休みしてって』
俺はなのは達の所に近寄って行ってハイタッチを交わす。
と、なのはが何かに気付いたように慌てて虚空を見上げた。
「あ、あのっ、アリサちゃんとすずかちゃんは?」
あ、忘れてた。
我ながら友人に対して酷いと思わなくもない。
『ああ、被害が酷い場所以外の結界は解除してるから、元居た場所に戻ってもらったよ。大丈夫』
「そうですか……よかったあ」
「ま、説明は大変そうだけどな」
「あっ!? そうだ、見られちゃったんだった!?
どうしよう、ジンゴ君。なんて説明すればいいのかな?」
慌て始めるなのはは、さっき馬鹿みたいにでかい砲撃をかました魔導師とは似ても似つかない。
フェイトとクロが横で健闘を讃え合っているのを見ながら、おたつくなのはに少しだけ苦笑し頭を軽く撫でた。
「あるがまま、でいいんじゃないか。大丈夫、なんとだってなるさ。
なんたって今日は……ホワイトクリスマスなんだぜ」
そっか、そうだねと破顔する彼女に微笑み返し、何かが引っかかって首を捻る。
はて、何か今の発言に重要単語があったような……
考え込む俺。
いきなり腕を組んで首を傾げ始めた俺を彼女がどうしたのと覗き込んできて。
なのはの顔を見た瞬間、全てが繋がる。
「あ、あーーーーーーーーっ!!!」
「ふええっ!?」
「な、なんだ!? 何事だ、ジンゴ!?」
「ジンゴ、どうしたの!? 何かトラブル?」
「み……翠屋……
どうしよ、掻き入れ時なのに……やばい、シロさんと桃ちゃんが死んでるかも……」
「ああっ!? 綺麗さっぱり忘れてたの!?」
頭を抱える俺達に、皆が失笑する。
さっきまですぐそこにあった世界の危機と比べ、なんとも平和なピンチだ。
だが、そんなほのぼのとした雰囲気も長くは続かなかった。
「はやて!?」
「はやてちゃん!?」
鋭く響いたのはヴィータとシャマルの心配を含んだ驚愕の声。
見れば先程まで騒いでいた守護騎士の中心で、はやてが気を失っていた。
ヴィータが悲痛な声で何度も何度も彼女の名前を呼ぶ。
それに呆然としたままなのはがはやてを呼んだのを聞いて、何故だか俺にも急激に眠気が襲ってきた。
あ、まず……
思った時にはもう遅い。
飛行魔法が強制解除され、
「ジンゴ君!?」
なのはがなんとか抱えてくれるも意識が保てそうにない。
そう言や……俺の身体もボロボロなんだっけ……
最後に他人事のように呑気に考えて、俺の意識も闇に落ちた。