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ユーノが事の全容を話し終わると、リン姉は静かに湯飲みを置いて口を開いた。
「なるほど、そうですか。
あのロストロギア“ジュエルシード”を発掘したのはあなただったんですね」
「……それで、ボクが回収しようと」
先程まで淡々と話していたユーノは今は俯きがちだ。
大方ジュエルシードがこの街に散った事にでも責任を感じているんだろうが……
若いと言うか、青いと言うか。
「立派だわ」
「だけど、同時に無謀でもある」
「まあ腰の重い管理局にも責任はあるけどな。
せめて一報くらい入れてけよ」
俺とクロの言葉に更にへこんだユーノ。
それを放置したまま、なのはは俺達に質問した。
結構この子図太いな。
まあ、そう言うのは嫌いじゃないが。
「あの……ロストロギアって何なんですか?」
「ああ、遺失世界の遺産……って言っても分からないわね。
えっと、次元空間の中にはいくつもの世界があるの。
それぞれに生まれて育ってゆく世界。
その中に極稀に進化しすぎる世界があるの」
なのはに理解しやすいようにリン姉は噛み砕いた説明を始めた。
「技術や科学、進化しすぎたそれらが自分達の世界を滅ぼしてしまって、その後に取り残された失われた世界の危険な技術の遺産」
リン姉の話に補足する。
「ま、そう言う現在の技術じゃ解析できない物を総称してロストロギアと呼ぶんだ。
危険度はモノによってピンキリでな。
けど使い方が分からんのも多いから本当に安全か確信出来てないやつが殆どだな。
モノによっちゃ世界どころか次元空間さえ滅ぼす程の力を持つ事もある」
「しかるべき手続きを以て、しかるべき場所に保管されてなければいけない品物」
まあ、この辺り俺のロブトールとベオウルフは思い切り無視しているが、一応事情があるので仕方ないっちゃあ仕方ない。
「あなた達が探しているロストロギア“ジュエルシード”は次元干渉型のエネルギー結晶体。いくつか集めて特定の方法で起動させれば、空間内に次元震を引き起こし、最悪の場合次元断層さえ巻き起こす危険物」
「君とあの黒衣の魔導師がぶつかった時に発生した震動と爆発。あれが次元震だよ」
「!?」
クロの言葉に衝突した時の事を思い出したのか、なのはの顔が強張った。
「たった一つのジュエルシードの、全威力の何万分の一の発動でも、あれだけの影響があるんだ。
複数個集まって動かした時の影響は、計り知れない」
「聞いた事あります。旧暦の四六二年、次元断層が起こった時の事」
流石はスクライア一族か。
その辺りの知識は多そうだな。
「ああ、あれは酷いものだった」
「隣接する平行世界がいくつも崩壊した。歴史に残る悲劇」
頷くクロと、話しながら砂糖をお茶に突っ込むリン姉。
なのはがうわあといった顔をして、分かるぞその気持ちと内心大いに賛同した。
「繰り返しちゃいけないわ」
そう締め括ってリン姉はお茶を一飲みし、置いた。
「これより、ロストロギア“ジュエルシード”の回収については、時空管理局が全権を持ちます」
「「え……」」
「君達は今回の事は忘れて、それぞれの世界に戻って元通りに暮らすと良い」
クロはむっつりと腕を組み、目を閉じる。
うーん、局の定型通りの対応か。
まあ、俺休暇中だし、あんま口出しするのもなあ。
ここの最高指揮官はリン姉だし、彼女の判断なら従うしかないか。
あながち間違った判断とは言えないし。
……向こうのお子様二人は不満だろうけど。
「でもっ……そんな……」
「次元干渉に関わる事件だ。民間人に介入してもらうレベルじゃない」
有無を言わせぬ様子でクロはなのはの言い分を遮った。
「でもっ!」
「まあ、急に言われても気持ちの整理もつかないでしょ。
今夜一晩ゆっくり考えて、二人で話し合って、それから改めてお話をしましょ」
「ああ、それはダウトだ」
空気を読まない発言をした俺に全員の注目が集まる。
「せっかく大きな問題がない限り黙ってようと思ってたのにさ。
それは駄目だろ。それされたら黙ってらんなくなるよ、リン姉。」
「ジンゴ?」
「俺まだシロさんに殺されたくないんだよね。だから口出しさせてもらうわ」
へらり、と笑ってから意識を執務官側に切り替えた。
ただのジンゴと言う個を消して、クローベル執務官と言う人格を作り出す。
「さて、まず一つ目。
彼女の技量ですが、話を聞く限り現状ジュエルシードの確保と言う点に絞れば充分な力があると思われます。
技量が足らないならともかく、危険だから手を引けの一言で横から獲物を掻っ攫われる事に納得できる人間がどれだけいるでしょうか?」
「それは……」
「我々は確かに世界を守る任に就いていますが、この世界においてはあくまでお客さんでしかないんですよ」
まあ、こんなのはおまけだ。
どうでもいい。
「二つ目、時空管理局局則、民間人保護の項」
「あ……」
俺の言葉にリン姉が苦々しい顔をした。
どうやらそれだけで気がついたようだ。
「先の発言は意識誘導に該当します。
責任の所在を明らかにするのは悪くありませんが、相手はまだ子供ですよ?」
「ごめんなさい。これは確かに私が軽率だったわ」
「いえ、これだけの力を持った子供の民間人も少ないですから。
お二人共局に勤めて長いのである程度は仕方ないと思いますが、自分の前ではやめていただきたい」
「ええ、気をつけるわ」
そう、リン姉はすぐさま自らの非を認めた。
やはり無意識にやっていたらしい。
「三つ目、彼女らの性格及び目的を考慮すると、アースラと袂を別った場合独自に活動する可能性が高いと思われます」
「えっと……」
「にゃはは……」
ユーノとなのはが苦笑するのを見て今度はクロが苦々しい顔をした。
「この場合の対策、立てて実行するのは現状の戦力では難しいと愚考しますが」
「……」
この沈黙は肯定だろう。
と言うよりか対象の性格考慮が全くされてない事にびっくりだ。
「最後に、意識誘導の事や下手な対応をして彼女が怪我でもした場合の事を高町家に知られたら……死にますよ?」
「にゃ、そんな危ない事しないよ!?」
慌てるなのはに笑いかけてから、自分にかけていた暗示を解除した。
一方、今までの話を聞いてアースラ組みは深刻そうな顔で考え込んでいる。
「ねえ、ジンゴ君」
「ん?」
「高町家ってそんなにやばいのかしら?」
「うん」
「ふえっ、即答!?」
いや、そんな驚かんでも。
どっからどう見てもあそこはやばいだろ。
「高町家というかシロさん達だな。
あの人は元々古流剣術を伝える一族の血を引いてるんだ」
「でも魔法使いでもなく、魔力を持たない一般人なんでしょう?」
「リン姉……目に見えない速度で斬りつけて来るような人物を一般人って呼ぶのはおかしいと思わないか……」
昔見た彼らの身のこなしが脳内で再生される。
……アレを一般人と呼んだら一般人に失礼だろ。
どうやったらなんの力のサポートもなく、あんなに速く動けるんだか。
思わずたそがれてしまった俺を見て、アースラ組が冷や汗をたらした。
「身体がまだ出来てなかった事を除いても、シロさんには手も足も出なかったし。
今でも動きが見えるか微妙なラインだからな。勝てる気がしねえ……」
あかん、なのはを放っておくと再会した瞬間、瞬殺されそうな気がしてきた。
「恭さんもかなりの使い手になってるはずだし、みーちゃんも習ってたはずだろ。
御神の剣士三人を相手にするなんて、俺は死んでもしたくないね」
「接近戦で僕に攻撃をかすらせないジンゴがここまで言うなんて……」
「更に言やシロさんかなりの親馬鹿だからな。
ついでにみーちゃんへの対応を見ている限り、恭さんはシスコンに違いない!」
「えーっと、にゃはは……」
否定しない辺り当たっているらしい。
「ちなみにこれは興味本位なのだけど。
現在のジンゴ君が魔法を使った上で、勝率はどの位になるのかしら?」
「んー、三人一気に相手するなら普通に〇%だと思うぞ。
シロさんだけなら二割あればいい方で、恭さんでもいいとこ四割か。
みーちゃんはあの頃はまだ基礎しかやってなかったから判断がつかん」
「そ……そう……」
再び冷や汗をたらすと彼女はぶつぶつと思考に入ってしまった。
ついでにユーノが青ざめてるのは今までの所業でも思い出してるからか、これまでの事がシロさん達にばれたら生きて帰れないとか、そんな所だろう。
ちなみにクロは俺の話にドン引きしている。
まあ、当然だよな。
常識で計っちゃいけない家だし、あそこは。
五分程してようやく戻ってきたリン姉は、パンと手を叩いて話を纏めに入った。
「不確定要素は減らすに限ります。
身柄を一時管理局預かりにする事、こちらの指示には従ってもらう事を条件に、なのはさん、ユーノ君の二名には民間魔導師として協力を要請します」
「ま、妥当なラインっしょ」
「えっと、それってどう言う……」
実は途中から話の内容についてこれてなかったなのはが声を上げる。
「つまり、簡単にまとめりゃこっちの指示に従ってくれるんなら今までどおりでいいってこった」
「えっ、本当!?」
なのはが勢いよくリン姉達を見ると、リン姉はにこやかに、クロは渋面で頷いた。
「事情説明はこっちがするから、家族の説得はなのはにお願いするってとこかな」
「え?」
「え!?」
リン姉となのはが声を上げた。
ってか、なのははなんでそんなに驚いてんだ?
「ご両親の同意だけじゃ駄目なのかしら?」
「ん、ここはミッドじゃなくて地球だからね。
就業年齢が高いし、なのは位の年の子は義務教育中。
親へ説明するのは責任者としての義務だと思うよ」
肩をすくめて、それからなのはに向き直る。
「で、なのはは何に驚いたんだ?」
「あ、えーっと、そのね、お父さん達にはこの事話してないの」
「え、何で?」
「だって、異世界の魔導師とかって……」
ごにょごにょと語尾を濁したなのはを見て気付く。
なるほどな。
こんな話信じてもらえないとかその辺りの理由か。
ここは魔法技術はあっても、表向き異世界の存在は実証されてないもんな。
「あんな、シロさんも恭さんも次元世界の事知ってるぞ」
「ふえっ!? なんで!?」
「なんでって……まあ、うちのお袋と知り合いだし?」
「ジンゴ、疑問系で話すことじゃないぞ」
クロが呆れた顔で突っ込みを入れてくる。
「んー、そもそもシロさん達との出会いは、管理局との首脳会議の時護衛をしてもらったのがきっかけって聞いてるしな。
俺が向こうに飛ばされる直前には恭さんも護衛に入るようになってたし。
桃ちゃんはお袋と仲いいから知ってるだろ。
そもそもあの人、うちのリビングで堂々と次元世界の話してたぞ。
おかげで向こうに飛ばされた時混乱せずに済んだが」
ピシャーンと落雷がバックに見えた気がする。
ついでに空気が凍り付いているのは気のせいだと思いたい。
多分、凍った理由はミッド組となのはで全然別物だと思うけど。
とりあえず全員が再起動するまで時間がかかりそうだったので、俺は手元の茶を啜りながら待つ事にした。
あ、冷めちまってるや。