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結局あの後質問は出なかったので、今日はそのまま解散の運びとなった。
クロ達はアースラに戻り、なのはは明日からアースラ入り。
ユーノは何か嫌な予感がすると言って、なのはより一足先にアースラで世話になる事になった。
ちっ、勘の良いやつめ。
別にユーノが嫌いなわけではない。
面白い修羅場を見逃してしまったのが悔しいだけだ。
出来れば俺がいる時に修羅場を展開して欲しいなあとどうでもいい事を考えた。
「出張?」
「ええ、そうらしいの。
鈴莉ちゃんの携帯に連絡したら切り上げて帰ってくるって。
明日の昼頃には瑞穂坂に戻れるそうよ」
「そっかあ」
ちょっと残念。
まあ出張でこっちにいないなら仕方ないか。
「と言うわけで今日は泊まって行きなさい。
今からあちらに戻るのは大変でしょう?」
「ん、それほどでもないけど。
でもまあ久しぶりに桃ちゃんの飯が食べられるってんなら悪くないね」
さりげなく要求してみるとにっこりと頷かれた。
「任せて。今からだとお夕飯には少し遅くなっちゃうけど腕を振るうから」
「ごめんな、こんな時間くに押しかけてきてさ」
「いいのよ。そんな事より刃護君が帰ってきてくれた事の方が嬉しいわ」
「そうだぞ刃護。いつからそんな遠慮するようになったんだ。
昔はもっと図太かった気がするんだが」
「図太……って酷いなあ、シロさん。
ま、若くして執務官なんてしてるとね、ある程度謙虚さもないとやってけない時もあるからさ」
そう言えば執務官ってなんだ? と言うシロさんの質問に答えながらソファで寛ぐ。
ああ、帰ってきたんだなあ。
こんなに心休まる時間はいつ以来かとぼんやり考えた。
「あれ? 恭さん、なんでトレーニングウェア?」
「いや、夕飯まで少し時間がありそうだからな。
この五年間で刃護がどれだけ強くなったか確かめようと思って」
……あんたどんだけバトルマニアなんだ。
内心呟きながらやれやれと立ち上がる。
「ま、久々だし付き合いますか。ん、みーちゃんも参加?」
「あはは、私もあの頃とは違うって事見せておかないとね」
まああの頃はまだ剣士の卵だったしな、みーちゃんは。
「あ、あのっ」
「どうした、なのは?」
「私も見に行っていいかな、お兄ちゃん」
「俺は構わないが……」
「別に俺も構わないよ」
別段隠す事もないし。
恭さんの視線に軽く返すとぐっと伸びをした。
「神速はなしだよね?」
「……お前が魔法なしならな」
「了解」
きっと全力でやりたかったんだな、これは。
不満そうに頷いた恭さんに苦笑してから、足取り軽く道場に向かう。
さて、みーちゃんはどんだけ強くなってるんかね。
「ちくしょう、徹も貫も反則級だと俺思うんだけど」
「まあそう言うな。正直刃護の年齢でその腕前は異常だぞ」
かと言って俺の方はこれ以上技術の伸び代はないしなあ。
伸びる可能性があるとすれば新しい戦術を取り入れるくらいか。
肩を落としながら母屋に移動する。
俺と恭さん、みーちゃんが三戦ずつして、恭さんに二敗、みーちゃんに二敗。
尤も恭さんからの勝ちはかろうじて拾ったと言うような結果。
納得出来る結果ではない。
どんだけ強えんだよ、御神の剣士。
陸戦なら軽くAAは超えるんじゃねえか。
「にゃはは。私はお兄ちゃん達についていけるだけ凄いと思うけど」
「んな事言ったってな…………俺も覚えようかな、徹と貫」
「刃護の動きは円だからな。難しいと思うぞ」
「くっそぅ……」
悔しいけど地団太踏む程子供ではない。
が、今はそうした振る舞いが出来た方が、このやりきれない思いをどうにかできる気がした。
「まあ、刃護は無手の方が強いしな」
「にゃ、そうなの?」
「一応、な。けどそれは慣れてるって意味で技術的にはどっこいどっこいだ」
実際、無手で闘ってきた年数の方が長いから、そちらの方が得意だ。
それでも彼等に勝てないと言うのはかなり悔しい。
「まあそうむくれるな。
この体格差でお前に圧倒されたら、俺達の方がまずい」
「むう、リーチか。こればっかりは努力でどうにかなるもんじゃないし……」
「それでも五年前よりは身体の使い方が上手くなってたからな。
お前が成長すればその内抜かれるかもしれん」
「……だといいんだけど」
この五年間一番鍛えたのはそこだから、伸びてなかったらむしろへこむよ。
元々俺が身につけた剣術は、子供の体格に合わせたものではなかった。
故にこの体格で出来る事に主眼を置いて、体捌きを中心に鍛錬してきたのだが。
「結果がこれだし。体がでかくなっても恭さんに勝てる気がしねえよ」
「私はまだ恭ちゃんから一本取れたことがないけど……な、何?」
思わず見詰めてしまい、それから溜息をついた。
「みーちゃんはいいよ、まだ伸び代でかいし。
あんだけの腕なのに、まだ荒削りな部分が結構あるってどゆこと?」
「いや……そんな事言われても」
「なんにせよ、御神の剣士は化け物揃いって改めて実感させられたよ」
「にゃ、にゃはは……話についていけないよう」
そりゃすまんかった。
「あー、美味かった」
つうか桃ちゃん張り切りすぎだろ、なんだあの量。
どうやってあの短時間で用意したんだろ。
ますます桃ちゃんの謎が深まった気がする一〇歳の春。
世の中には不思議がいっぱいだと改めて実感した。
「刃護君、お風呂入っちゃって」
「おりょ? いいのか桃ちゃん。なのはとか先に入れた方がよくね?」
ソファで舟を漕いでいるなのはを指差す。
まあ、今日は色々あったから、疲れてるだろうし。
俺はこの位慣れてるから後でも平気だし。
「大丈夫よ。それとも、なのはと一緒に入──」
「先に入らせていただきます」
「うわ、即答だね、刃護君」
当り前だろ、みーちゃん。
一緒に入っていいのは……せいぜい七、八歳位までだと思うぞ。
あ、なのはは早生まれだからまだ八歳なのか。
ここまでのなのはのピュアっぷりを考えると、起きたら本当に一緒に入ると言い出しかねないのでさっさと風呂へ行く事にした。
「あ、着替えねえや」
「大丈夫だ。恭也の昔のトレーニングウェアがある」
シロさんに手渡されたのは黒いTシャツと黒のズボン。
俺はズボンを広げるとまじまじと見詰めた。
「どうした?」
「いや、よく考えられてるなあと思って。
あれだけ暗器しまってても外から分からないわけだよ」
「お前な……見る所はそこなのか……」
昔から結構疑問だったんだよね。
どこにあの大量の暗器を仕込んでるのかとか。
「まあいいや、ありがと。じゃあ先にお湯いただくね」
「ああ」
地球の風呂も久々だなあと考えながら風呂場に向かう。
あまりに久しぶりだったから思わず長湯してしまったのは……まあ、しょうがない、よな?
風呂から上がってくると、片手に泡麦茶を持ったシロさんがいた。
桃ちゃんが普通の冷やし麦茶を出してくれたので、付き合うことにして、昔話やあちらでの生活、守秘義務に引っかからない程度の仕事のあれこれをぐだぐだと話す。
シロさんは結構できあがりながらも、俺の話を興味深そうに聞いていた。
「結構激務なんだな、執務官って言うのは」
「まあね。
けど俺はばあちゃん直属だから余計な仕事も少ないし、そこまでじゃない。
今日一緒に来たクロなんて、お前いつ休んでんのって位仕事漬けだし」
尤もあいつは望んでやってるっぽいけどと付け足すとシロさんは苦笑いする。
「そう言やさ」
「ん?」
「全然関係ないけど、なのはのあのピュアっぷり、どうにかした方がいいと思うぞ」
さっきも途中で風呂に乱入してきそうでびびった。
恭さん、止めてくれてありがとう!
「あー、身近に同い年位の男の子がいなかったからなあ。
なのはの通ってる小学校も、割とお嬢様校みたいな所があるし」
「うわ、そうなんだ。……って、雄真は?」
それにシロさんがほんの少し苦味の混ざった顔をした。
「刃護がいなくなった直後くらいまでは雄真君も鈴莉さんにくっついて来てたんだけどな。すぐ来なくなったよ」
「来なくなった?」
確かなのはとはそれなりに仲が良かった気がするんだが。
「ああ。何か事件があったらしくてな。
その後から魔法関係のものに関わらなくなったんだ。
その流れで鈴莉さんの仕事についてくる事もなくなって……それっきり、だな」
「雄真が……」
信じられない。
あんなに魔法が好きで、才能に溢れていた雄真がやめたなんて。
よく母さんの真似をして勝手に魔法を使い、怒られてたくらいなのに。
「今は一般人として普通に学校に通ってるんじゃないか。
詳しい事は鈴莉さんに聞くといい」
「ああ、そうするよ」
俺がいなくなった事が、あいつの心の傷になってなきゃいいんだけど。
「刃護」
「ん?」
「お前のせいじゃない」
「……ん」
わかってる。
あれは俺がどうこうできるものじゃなかった。
でも、
「長いなあ……」
「五年、か」
「長いよ」
「……そうだな」
シロさんはコップの底に残っていたビールをあおると、俺の頭を軽く撫でた。
精神が身体に引っ張られているせいか、少しだけ涙腺が緩む。
「……俺、シロさんみたいな父親が欲しかったな」
「大義さんがいただろう」
「ん。だけど、大義父さんはどこか俺に遠慮してたからさ。すぐ下に雄真もいたし」
お袋は俺が生まれる直前に小日向大義と再婚したと聞いている。
これは俺の推測だけど、父さんは俺の実父、式守刻国に対する後ろめたさがあったのではないだろうか。
長期に亘る出張が徐々に増えていったのは、そのせいだったのかもしれない。
親父似のこの顔が、少しだけ恨めしかった。
「……」
「はあ……」
思わず溜息が漏れてしまう。
シロさんはそんな俺を痛ましそうに見てから、気を取り直したように明るい声を出した。
「まあ俺は刃護みたいな息子なら歓迎だけどな」
反射的に顔を上げると、シロさんがにやにやと笑っているのが目に入る。
まずっ、これはからかわれるパターンだ。
「シロさ──」
「美由希……はちょっと年が離れてるしな。なのはなんてどうだ?」
「……………………………………は?」
「いや、だから、うちの娘のどっちかと結婚すれば俺は刃護の父親だろう?」
「なぁっ!?」
俺をからかう為とは言え、あのシロさんが娘を差し出すだとぉっ!?
…………なんか驚く所間違った気がするな。
「ま、そのくらい俺達はお前の事を気に入ってるって事だ。
少しシスコンの気がある恭也も、なのはの相手が刃護なら文句は言わないだろうし……」
「ふぇ? お父さん、呼んだ?」
丁度悪いタイミングで風呂上りのなのはが顔を出す。
俺は驚きを顔に出さないよう態度を取り繕った。
「ああ、なのは、上がったのか。
なに、刃護の奴にな、なのは──」
「シロさん! 飲みすぎだって!!」
が、すぐにメッキがはがれてしまう。
まったく、今何言おうとしたんだか。
俺の言葉を受け、彼はやれやれと肩をすくめると、なのはに「なんでもないよ」と微笑みかけた。
「俺、高町家は鬼門なのかと思い始めたよ……」
搾り出した声がやけに疲れてたのは、仕方ない事だと思うんだ、俺は。