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驚く程自然に目が覚めた。
────今日、か。
身なりを整え、玄関へ。
玄関では、すでに身支度を整えたなのはが靴を履こうとしている所だった。
「あ……」
「おはよう。なのは、ユーノ」
「おはよう。ジンゴ」
「うん、おはよう。ジンゴ君」
気負いはないみたいだな。
すっきりとした顔で挨拶してきたなのはを見て内心ごちる。
三人で頷き合うと、玄関を出た。
なのはとユーノが走り出したのを尻目に一度だけ高町家を振り返り、黙って見守っているであろう人達に深く頭を下げる。
「………………行って来ます!」
必ず帰ってくると、そう宣言してからなのは達を追った。
俺がなのは達に追いついてすぐにアルフが合流。
そのまま俺達は一路、海鳴臨海公園を目指す。
早朝の臨海公園は朝日を浴びて、その海は複雑な色合いを見せていた。
なのはが立ち止まり、倣うように俺達も止まる。
彼女はそのまま両の目を閉じて、凛とした声で……告げた。
「ここなら、いいね。……出てきて、フェイトちゃん」
海風が力強く通り抜けて。
木々のざわめきの中、確かに人の息吹が混じるのを聞く。
弾かれるようになのはが振り向いた先、
≪scythe form≫
公園の街灯、その上に、愛用の大鎌を携えた黒衣の死神が静かに佇んでいた。
「フェイト……もう止めよう。
あんな女の言う事もう聞いちゃ駄目だよ、フェイト。
……このまんまじゃ不幸になるばっかじゃないか。だからフェイト!」
自らに最も忠実な狼の言葉を受け止め、その瞳を悲しみに揺らしながら、それでも彼女はただ首を横に振る。
「だけど……それでも私は、あの人の娘だから」
それをなぜか、酷く悲しいと思った。
一歩前に出たなのはが、すっと左腕を水平に上げる。
その手先からバリアジャケットが構成されて行き、最後に魔導師の杖レイジングハートをその手に掴むと、彼女は静かに口を開いた。
「ただ捨てればいいってわけじゃないよね。
ただ逃げればいいってわけじゃ……もっとない!」
彼女がその瞳に映すのは悲しい眼をした魔導師ただ一人。
何度もぶつかり合い、分かち合いたいと願った女の子。
「きっかけはきっとジュエルシード。
だから賭けよう、お互いが持ってる全部のジュエルシードを!!」
≪put out≫
なのはの周りに、今まで彼女が集めたジュエルシードが浮かび上がる。
≪put out≫
それに呼応するかのように、死神の鎌バルディッシュが九つのジュエルシードをその場に浮かべた。
「……それからだよ。全部、それから」
そうしてなのはは自らの愛杖を構えた。
「私達の全ては、まだ始まってもいない。
だから、本当の自分を始める為に────」
ここから先俺達は脇役に過ぎない。
だから、
せめて脇役として、最後まで見届けようじゃないか。
「────始めよう。最初で最後の本気の勝負!!」
飛び立ったのは、同時。
青空の下、桜色と金色の魔力がぶつかり合う。
その光景を、漠然とだがとても美しいと思った。
互いの得物をぶつけ合う事から始まった戦いは、誘導弾の撃ち合いによる相殺、フェイトの鎌による強襲、シールドで受け止めたまま生き残った魔力弾を操り背後から奇襲させるなのはへと続く。
「はは……マジかよ」
渇いた笑いが口から零れ落ちる。
「ジンゴ?」
ユーノに呼ばれるが目は逸らさない。
次第に苛烈さを増していく二人の戦いを見詰めたまま口を開いた。
「これが魔法に出会って一ヶ月そこそこの小学三年生だと?
ほんと、不破の血はアホみたいな才能の塊だな」
「不破?」
「シロさんの旧姓だ。
あそこん家は代々剣術を扱うのに適した身体で生まれてくる。
なのはにそっち方面の力はなさそうだったから、桃ちゃんの血で薄まったんだと思ってたんだが……」
目の前の光景はそれを否定している。
なるほど、シロさんが普通に生きてほしかったと明言するわけだ。
こりゃ……危うすぎる。
「ユーノ……ユーノ・スクライア」
「は、はい」
急に声色が変わった事を感じ取ったのか、ユーノが姿勢を正した。
「なのはの魔法教師役はお前だったんだよな?」
「う、うん。何かまずい動きでもしてる?」
「いいや、逆だ。
……こりゃ、俺とお前の役割は思ってたより重いかもしれんな」
恨むぜばあちゃん……いや、今知れてよかったか。
知らん所で進んでたらと思うとぞっとしねえな。
「もうなのははボクを越えてるんだ。
なのはには凄い才能があるし、ボクが教える事はもう何もないと思うんだけど……」
「それだ」
「え?」
直上からの奇襲をなのはが紙一重で回避した。
「才能が……ありすぎる」
「それっていい事なんじゃ……」
「要はバランスだ。
思い出せ、そして忘れるな、ユーノ・スクライア。
なのははミッドじゃなくて地球で育った、九歳にも満たない女の子なんだ」
「どういう意味?」
「才能によって得る力と、精神のバランスが悪すぎる。
突出しすぎた力は、いずれ精神を引きずり回すぞ。
端的に言えば……このまま行けば、どっかで大ゴケする可能性が高え」
「な!?」
「ライトニングバインド! まずい、フェイトは本気だ!!」
アルフの声で我に返った。
そう言えばまだ決闘中だったな。
「ちっ、この話はまた後でだ!」
「なのはっ!」
巨大な魔方陣の中心、祈るようにバルディッシュを構えるフェイトと、四肢をバインドで拘束されたなのは。
状況は明らかになのは不利で進んでいた。
【なのはっ、今サポートを!】
【駄目ーーーーーーっ!!】
【手え出すんじゃねえっ!】
「なっ、ジンゴ。さっき言ってた事と矛盾してるよ!?」
「それとこれとは話が別だっ」
こいつは想いを天秤にかけた戦い。
一騎打ちに横槍なんて入れさせてたまるかよっ!
【そうだよ! アルフさんもユーノ君も手え出さないで!
全力前回の一騎打ちだから……私とフェイトちゃんの勝負だから!!】
【でも……フェイトのそれは本当にまずいんだよ】
【平気!】
【アルフ、お前はなのはに託したんだろ? なら、最後まで信じやがれっ!】
俺の念話になのはは不敵に笑う事で応える。
拘束されている事など微塵も感じさせないその目は、詠唱を続けるフェイトをただただ見詰めていた。
「フォトンランサー・ファランクスシフト」
誰もが息を呑んで見詰める中、フェイトの魔法が完成する。
振り上げた手を、彼女はなのはに向かって振り下ろした。
「撃ち砕け! ファイア!!」
金色の弾幕がなのはを覆う最中、ロブトールをセットアップ。
それだけで意識の切り替えは終わる。
脇役の出番は、いつだってクライマックスのその後だ。
「なのはっ!」
「フェイト!」
フェイトは弾幕で全てが終わるとは思ってないらしい。
新たに大きめの魔力弾を形成し、
「いった~、撃ち終わるとバインドってのも解けちゃうんだね」
煙の中からほぼ無傷で現れたなのはに驚愕した。
「今度はこっちの──」
≪divine──≫
「──番だよ!!」
≪──buster≫
奔る桜色の閃光。
それに向かって発射されたフェイトの魔力弾は、あっさりと桜色に飲み込まれた。
「っ!?」
ラウンドシールドを展開したフェイトが、襲い来る魔力に耐え続ける。
それを尻目に、
「……おいおい、マジかよ」
「受けてみて、ディバインバスターのバリエーション!」
≪starlight breaker≫
ようやく耐え切ったフェイトが、集束され行く魔力に気付く。
周りの魔力をかき集めていく様は、まさしく流星のよう。
彼女が逃げようとした所で、桃色のバインドに拘束された。
「うわ……鬼だな」
「ごめんなのは。否定できないよ……」
「これが私の全力全開!!」
上空でレイジングハートを構えていたなのはが、そのトリガーを振り下ろす。
「スターライトブレイカーーーーーッ!!!」
その巨大な桜色に、フェイトが飲み込まれていった事だけが辛うじて判別できた。
「これ見てると俺の努力とかアホみたいに思えてくるぞ。
つか、あんなの喰らったらいくら非殺傷設定でも一瞬三途の川に行けるだろ……」
「フェイトーー!?」
たっぷり数秒間、世界を蹂躙していった魔力がようやく消え去る。
それでも一応なんとか、フェイトはその場に留まっていた。
ただし、次の瞬間意識を失ったらしく、ふらりと背中から海に落ちていったが。
「フェイトちゃん!」
気付いたなのはが彼女を追う。
そこでようやくアルフ達が俺の姿に気付いた。
「あんた、それ」
「油断するなよ。まだ終わったわけじゃねえんだ。ベオウルフ!」
「≪ユニゾン・イン!≫」
彼女を抱えて海から出てきたなのはは、上空でフェイトと言葉を交わしている。
それはさながら一枚の絵画のよう。
だが、俺の意識はその美しい光景にではなく、空の更に上に集中されていた。
「five……」
「え、何?」
すまん、ユーノ。
答えてる暇がなくなった。
フェイトの傍に浮かぶ九つのジュエルシード。
それを目掛けて空が割れていく。
「four……」
フェイトがなのはの手を離れ、自分で空中に留まった。
それを尻目にカウントダウンは続く。
≪three≫
「two」
≪one≫
「go!」
思いっきり地面を蹴って飛び出す。
「おおおおおおおぉぉぉぉぉっ、白銀ぇっ!」
≪ようやく出番か! 呼ぶのが遅えぞ、ジン!!≫
刀を直上に掲げ、一瞬身構えようとしたフェイトの上空に出る。
「気張れよ、野郎共っ」
≪protection≫≪プロテクション≫≪プロテクション!≫
三重構造。
これで、どうだあっ!!
直後、割れた空から落ちた稲妻が俺の防御壁に直撃する。
あっさりと抜かれた一枚目に目を見開きながら力を籠めた。
拮抗する二枚目と雷。
もうすぐ三枚目に届きそうな勢いで侵食が始まる。
「……ぐ、くそっ、重いぞこんちくしょうっ!!」
腕が軋む。
割れるような痛みと共に皮膚が傷つき真っ赤な血液が溢れ出した。
だが、耐えきれなきゃ駄目だろ、ここは──
後ろには、護らなくてはいけない者が在る。
「通して……たまっかよおっ!!!」
──俺みたいなのでもな、意地があんだよ、男の子にはっ!
≪主! ジュエルシードが!!≫
くそっ、本命はそっちか!?
一瞬そちらに気を取られた隙間を縫って、電撃が俺の身体を奔った。