[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
舞台裏では in 原作前
その4.実はあまり教師になろうなんて思っていなかったんだけど。
「尾賀先生! アラン君が──」
職員室に飛び込んできたこの年頃特有の甲高い声に、私はまたかと溜息をつく。
とは言え自分の教え子である児童達に嫌そうな顔を見せれるわけもなく、勢いをつけて立ち上がった。
「場所はどこ?」
「中等部の方に向かう渡り廊下の途中です!」
駆け込んできた少年の足に合わせ走りながら事情を聞いていく。
どうも、低学年の子が中等部の方へ迷い込んだらしい。
それだけなら問題はない。
ただ、その渡り廊下と言うのが中等部の体育館裏を通る点を除けば、の話だ。
中学生と言うのは中々に難しい年頃で、自分が他人と違う事を主張したがる。
つまり、自分が特別な存在だ、と思いたいのだ。
思春期だからそんなものだろうとは思うが、中には他人と違う事をやろうとして不良の真似事をするような子も存在する。
それは品行方正を売りにしている聖祥大附属も例外ではない。
とは言え、その子等の不良っぷりも可愛いもので、せいぜいが親や先生に隠れてちょっと煙草を吸ってみたり、万引きをして捕まったりとその程度だ。
元々この学校の子供達は純粋に育ちすぎて、狡賢い事に向かないのである。
なんにせようちの生徒達はそんな感じの似非不良なので、やる事もステレオタイプ、つまり体育館裏に溜まっている、と言うわけ。
「それで、中等部の先輩に絡まれてた所にアラン君が通りかかって」
「いつもの調子で喧嘩を売ったのかしら、あの子」
「いえ、普通に帰ってもらおうと話をしてたみたいなんです。
だけど先輩の中にアラン君の事を知っている人がいて……」
「あっちゃー、あの子も有名になってきたものね。
もしかして喧嘩で勝ったら箔がつくとかその辺り?」
「……どんぴしゃです」
俯きがちになるその子の頭をくるりと撫でると道案内はここでいいよと言って帰させる。
私の予想が正しければ、もう解決してしまっているはずで。
更に言えばこの子に現場を見せるのは問題ありだと思ったのだ。
そうして私は1人で体育館裏に足を踏み入れる。
視界に入るのは小さな銀髪の少年と倒れ付している中学生3人。
「……ああ、尾賀ちゃんか。いつもご苦労様」
「そう言うなら厄介事を減らしてくれると嬉しいんだけど。
今月で私が呼び出されるのは何回目だったかしら?」
「今日のはあちらから向かってきたんだ、仕方なかろ。ついでに今回で4回目だな」
なお、現在は14日だ。
まだ今月は半分以上残っている。
「君に目をつけられたのが運のつき、か。大怪我はさせてないのよね?」
「そんな不手際するわけないっしょ。痣とかも残らないはずだって」
「毎度毎度、君のその手の技量はおかしいと私は思うんだけど……」
「まあ、家が家だからな。剣術一家の一員なんてそんなもんさ」
肩をすくめる動作が妙に似合っている少年を前に、私はあからさまに溜息をついた。
彼との出会いはとても単純だった。
単に職員室に児童が先生を呼びに来た時、手が空いていたのが偶々新任の私しかいなかっただけの事。
頼まれたのは喧嘩の仲裁。
そこで私は初めてこの子、アラン・F・高町に出会った。
気絶した子供を睨みつけている銀髪の少年と、唖然とそれを見る私と言う中々アレな出会いだったけど。
彼は私の顔を見るなり、手間をかけさせてすまないと謝った。
当時7歳の子供が、だ。
『手を出した事と先生の手を煩わせた事は悪いと思っている。だが俺はそいつに謝る気はない』
そう言った彼を叱ろうとした所、彼に気絶させられていた少年が目を覚まし、私を呼びに来た少年に謝った。
たった一言、ごめんなさい、と。
それでアラン君は満足そうに頷き、一件落着とどこぞの水戸黄門のような台詞を吐いて去っていってしまったのだけど。
その後もなぜか私が暇な時に限って彼は問題を起こすようになる。
何度か顔を合わせる内に彼の人柄も分かってきて、どうも彼が問題を起こすのは自分ではなく他の誰かの為の時が多いらしいと言うのも理解したのだけど。
いつの間にやら私がアラン君対応専門のような扱いになってしまっているのはどうにかして欲しい。
「ん? 尾賀ちゃん、どうかしたか?」
「いえ……こう言うのも腐れ縁って言うのかしら?」
「さあ、ねえ……」
興味なさげに発された言葉とは裏腹に、彼は酷く楽しそうで。
筋が通らない事が大嫌いなこの少年の事を私も中々に気に入っているので、きっと同じような表情をしているのだろう。
ようやくのろのろと起き始めた中学生達に向かって、
「ほれ、早く自分の巣に帰れ」
と言いながらお尻を蹴っ飛ばしている小さな少年の背中が妙に大きく見えて。
まあ、教師って言うのも悪くないわよね。
内心の呟きは誰に知られるでもなく。
振り返ったアラン君の表情が妙にとぼけた感じだったので、私は声を出して笑った。