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翌朝、海鳴総合病院に向かうバスの中で、今更ながら思い出したようにフェイトが呟いた。
「はやて、病院に戻ったんだ」
「そう言えば、入院中に抜け出しちゃったんだもんね」
少しおかしそうに笑うフェイトとなのはの後ろで、俺は携帯を使って未だに残っている細々とした事後処理関連のメールをやり取りする。
……なんとか丸く収まった、かな。
まあ、よかった。
最後に了承のメールを送信し大きく溜息をつくと、丁度目的のバス停に到着した。
バスを降りた後はせかせかとはやての病室へ。
「「おはようございます」」「よっ、おはようさん」
「あ、おはよう。なのはちゃん、フェイトちゃん、ジンゴ君」
「あれ?」
「どうしたの? もう退院?」
病室でははやてがシグナムに私服の上着を着せて貰っていた。
それに首を捻ると、車椅子に移動しながらはやては苦笑する。
「残念。もうしばらくは入院患者さんなんよ」
「そうなんだ」
「まあもうすっかり元気やし、すずかちゃん達のお見舞いはお断りしたよ。
クリスマス会直行や」
「そう」
「ま、足の麻痺も取れてるだろうし、これからリハビリになるんだろ?
もうしばらくしたらクラスメイトになるかもしんねえな」
「せやね」
言いながら車椅子を操作し、はやてが俺達に近寄る。
と思ったらいきなり頭を下げた。
「昨日は色々あったけど、最初から最後までほんまありがとう」
「ううん」
「気にしないで」
「そうそう。俺なんて殆ど自分で顔突っ込んだみたいなもんだしな」
任務ではあったが、きっと任務ではなくても俺は首を突っ込んでいただろう。
そう感慨に耽っているとなのはがはやての首に下がっている剣十字のペンダントを指差した。
「それ、リインフォース?」
「うん。あの子は眠ってもうたけど、これからもずっと一緒やから。
新しいデバイスもこの子の中に入れるようにしようと思って」
「はやて、魔導師続けるの?」
意外そうに問うフェイトにはやては軽く微笑み返す。
「あの子がくれた力やから。
それに今回の件で、私とシグナム達は管理局から保護観察受ける事になったん」
「そうなの?」
全員の視線が俺に集中する。
俺はどう説明したものかと頭を掻くが、意外にもヴィータ達守護騎士がフォローに入ってくれた。
「まあな」
「管理局任務への従事、と言う形での罪の償いも含んでいます」
「そこにいるクローベルとクロノ執務官がそう取り計らってくれた」
「ま、俺はあんま役に立ってねえよ。
報告してばあちゃんに取り計らってもらっただけだしな。
結局、任期を短くしてやる事もできなかったし」
「でも、はやてちゃんと離れずにいられる、多分唯一の方法だったクロノ執務官も言ってましたから」
そう柔らかく微笑んだシャマルに参ったとばかりに両手を挙げる。
守護騎士達の話に、なのはとフェイトは一応の納得をしたようだ。
「私は嘱託扱いやから、なのはちゃん達の後輩やね」
はやての笑顔と共に発された台詞に俺達は一度顔を見合わせ、歓迎の意味を籠めて彼女に笑いかけた。
そのまま本日の外出許可を貰う為、はやての担当医の所へ移動する。
担当医である石田先生は藍色の髪をセミショートにした若い女性で、先生と言うよりは近所のお姉さんと言った容貌をしていた。
「はやてちゃん、今日はちゃんと帰ってきてね。約束よ?」
「はい! 約束です」
無断外泊はもう絶対にさせませんと気合の入った顔で注意する石田先生に、はやては嬉しそうに返事をする。
付き添っているシャマルやシグナムに石田先生が念押しとばかりに注意しているのを、俺達とヴィータは少し離れた位置から眺めていた。
「昨夜とか今朝、やっぱり大変だった?」
とは、なのはの質問。
「ああ。無断外泊だったからシグナムとシャマルが滅茶苦茶怒られてた」
「怖い先生なんだ……」
あの手の美人さんは怒ると怖いよなあ、とフェイトの言葉に頷く。
はやてが先生と約束を交わし、指切りしている所を見ながらヴィータは笑顔で続けた。
「でも……いい先生だ」
「そうみたいだね」「だな」
あちらの話は終わったのか、三人が石田先生と別れてこっちにやってくる。
と、シグナムとフェイトの視線が交錯した。
お待たせと言ってやってきたはやてに合わせ歩き出したなのは達とは異なり、シグナムとフェイトは立ち止まり真剣な顔で向かい合う。
「テスタロッサ……」
「はい、シグナム」
「預けた勝負、いずれ決着をつけるとしよう」
「はい、正々堂々…………これから、何度でも」
フェイトが最後の一言を微笑みながら言うと、シグナムは虚を衝かれたような顔になり、頬を緩ませた。
彼女はフェイトの頭を撫で、それから俺にも好戦的な笑みを向ける。
って、なんで俺?
「クローベルも、是非手合わせ願おう。お前の戦い方には興味がある」
「うげ、俺もかよ。そう言うのはベオとやってくれ」
「ふむ、アストラとか。それも面白いかもしれんな」
結局三人でなんとなくおかしくなって笑うと、前を歩く四人を一緒に追いかけた。
クリスマスパーティでのアリサ達への説明は……まあ、大変だったと言っておこう。
最初は驚きながら聞いていた二人は、すぐに俺達の事を心配し、水臭いと怒り、何か手伝える事はあるかと聞き、これから先の協力を約束してくれた。
まあ、最も風当たりが強かったのは当然ながら俺なのだが。
巻き込まれたはやてや、民間協力者のなのは、嘱託のフェイトとは異なり、始めから正規局員だったのが俺だけだったのも影響しているのだろう。
風当たりが強いのは二人がそれだけ心配してくれている裏返しだとわかっているので、ありがたく気持ちはいただいておいた。
それと、今回最も驚いた事は、パーティの途中でやってきたアリサの父親と俺の面識があった事だろう。
日本を代表するバニングスグループの社長、デビット・バニングス氏。
直接顔を合わせるまで忘れていたが、俺は確かに彼とかつて地球の首脳会議で会った事がある。
参加はしてないがお袋に連れられて会場に行った事があったのだ。
それを聞いたアリサの剣幕が物凄かったのは、記憶の彼方に消してしまいたい。
その流れで俺がお袋、御薙鈴莉の息子と皆にばれてしまったのは、まあ余談も余談と言うやつだ。
パーティからの帰り道、クロからのメールを処理し終わってふと思い出す。
ああ、そう言えばクロが捕えた双子の猫、あれはやはりグレアム提督の使い魔だったらしい。
彼は、闇の書の被害を食い止める為、書の主ごと魔導書を凍結させてしまうと言う計画を立てていたとの事。
結局計画は俺達──主にクロだが──の働きによって頓挫、彼自身の罪は捜査妨害のみに落ち着いたので、自主退職と言う形になったそうだ。
グレアム提督ははやてが事実を受け止められる年齢になったら自分から真実を告げるつもりらしいので、この事について俺は手を出さない事にした。
それはともかく、
「これでなのはも嘱託魔導師か」
「にゃはは、これから先どうなるかは分かんないけどね」
「知ってるか? 半年前のP・T事件と今回の闇の書事件で撮られたお前の戦闘記録がどうなってるか」
「ふえっ!? いつの間にそんなの撮ってたの?」
そりゃまあ、報告の時に上げてるし。
闇の書事件に至っては、殆どが局の傘下で戦ってたから撮られてるだろ。
聞いてないよと不貞腐れるなのはの頭をぽんぽんと叩きながら苦笑する。
「それはともかく、あれを見た武装隊の隊長からお前にラブコールが来てるぞ」
「そうなの?」
「ああ。ユーノに来てたのと負けず劣らずだ。
無限書庫も武装隊も人手不足だからな。優秀な人材が欲しいのさ」
「そっか……そうなんだあ……」
感慨深げに頷くなのはに、少しだけ複雑な思いを抱く。
無限書庫は激務ではあるのだが、直接的な命の危険はない。
が、武装隊は違う。
あちらは直接犯罪者やロストロギアと対峙する、危険な部署だ。
シロさん達に後ろめたい思いを抱きながらも、一応伝えておかないとなと更に口を開く。
「あと、戦技教導官はどうだって話も来てる」
「戦技教導官?」
「んー、まあなんだ。簡単に言や戦時のエースが戦争のない時に就く仕事なんだけどな」
「にゃっ、エース!? そんな力私にないよ!?」
まったくこいつは自覚ねえんだからと呆れながらも続ける。
実際なのははエースの名に恥じないレベルの働きをしているのだが。
「とりあえず仕事内容を聞け。
魔導師用の新型装備や戦闘技術をテストしたり、最先端の戦闘技術を創り出したり研究したり、それから訓練部隊の演習の相手をしたり、だな。
あとは預かった部隊相手に短期集中で技能訓練したりする事もある」
「なんか、最後のは先生っぽいね。大変そう……」
「その分やり甲斐のある仕事ではあるけどな。
焦って決める必要はないさ。そう言う話も来てるって知っといてくれればいい」
うんと頷いたなのははしばらく一人で考え込むと、思い出したように顔を上げた。
「ジンゴ君は……どうするの?」
「俺はまあ、今まで通りだけどな。……ああ、そう言や追加任務が来てたか」
声に少し疲れを滲ませてしまったせいでなのはが俺を心配そうに見てくる。
それをなるべく気にしないようにしてパカッと携帯を開き彼女に見せた。
「『八神はやてちゃんもよろしく』……って、何これ?」
「護衛対象に追加、だとさ。
ま、はやての場合はシグナム達がいるから俺のやる事は殆どないんだけどな。
三人の護衛につけるとか、絶対遊んでんだろ、ばあちゃん……」
「にゃ……にゃはは。お疲れ様です」
まあいいさと空を見上げる。
頭上には満天の星空。
終わってみれば事件の発覚から終結まで約一ヶ月程度。
何故だか妙に長く感じた闇の書事件は終幕を迎えた。
これから先も、俺は色々な事件に関わるんだろう。
だけど、今のこの気持ちを忘れたくはないと、俺は思った。