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八神家に到着後、話にあった通り一人で家にいたはやてに迎え入れられた。
まずは早速昼飯を皆で作ろうという事で、参加しようとしたらなのはの大反対を喰らった俺である。
「ジンゴ君はいいの! ほらあっち行ってて!!」
「え、えっと……なのは?」
「なになに? 参加させられない程酷いん?」
はやての台詞を聞き、あ、そう言う事かと俺は納得した。
その脇で、なのははかぶりを振って拳を握り締める。
彼女のバックに炎が見えたのは気のせいだと思いたい。
「逆だよ、はやてちゃん! うちでは滅多に作らないし、うちのお母さんとまでは行かないんだけど、すっごく美味しいの!」
「なのは、美味しいならいいんじゃないの?」
「フェイト、言っても無駄だ。馬鹿みたいに頑固者だからな、なのはは」
「絶対勝つ!」
「んな事言ったってさあ、なのはと俺じゃ年季が違うんだからしょうがねえだろ」
「そうなん?」
「ばあちゃんと二人暮らしつってもあの人も忙しいからほぼ一人暮らしだったしな。
三食自分で作ってたし、時々様子を見に来る局の人に教わったりしてたんだよ。
そんな生活五年も続けてりゃ上手くもならあ」
最近は管理局の食堂で済ます事も多いけど、と絞めるとへえと感心した声を二人が上げた。
すぐ隣、一人闘志を燃やしていたなのはは、自分と他二名の女子に温度差がある事に気付いたらしい。
はやて達を呼んで、部屋の隅で何やら話し始めた。
しばらくして三人が戻ってきたので、
「お、戻ってきたか? っしゃ、始めるぞ!」
と腕まくりをした所、
「ジンゴ君はあっちのリビングにおってな」
「ジンゴ、昨日遅かったみたいだから寝てていいよ?」
「と言うわけでジンゴ君は休憩。三人で頑張るぞー!!」
おー、と声を揃える女子軍団に俺は台所を追い出されてしまった。
いったいなのはは何を吹き込んだんだ?
首を傾げながら少し考えてみたが、わかりそうにないのでお言葉に甘え休ませてもらうことにする。
「……ふぁ……眠…………」
ソファに身を預けて目を瞑る。
遠くでは三人娘の姦しい声。
平和な空気を体中で感じて、なんだかよく眠れそうだと意識を沈めた。
ゆらゆらと、遠い所で意識が揺れている。
ぼやけたフィルタを通して聞こえるのは、よく知っている三人の声。
起きなきゃなあと思う反面、もうしばらくこの心地よさを感じていたいとも思い、どっちつかずのまま俺は漂い続ける。
「なのはちゃん達は今夜から旅行やったね。もう準備できてる?」
「うん」
「はやてやシグナム達も一緒に行けたらよかったんだけど」
「まあ、行動拘束はそんなにないけど、一応自粛やね。
真面目に罪を償ってかんとあかんし」
ふう、と吐かれたはやての溜息が妙に大きく聞こえた。
「重い怪我した人がおらんかったのは不幸中の幸いやったけどな」
「シグナムやヴィータは強いからね。手加減も上手くやったんでしょう」
「そやね、ほんまに優しい子達やkら。
……蒐集の事とか早く気付いてあげられたらよかったし、私がもう少ししっかりしてたらよかった。
過ぎた事後悔してもしゃあないけど、せめてちゃんと罪を償って、あの子達のこれからを幸せな毎日にしてあげなあかん」
ったく、事件後ずっと違和感があるとは思ってたけど、こいつはそんな馬鹿馬鹿しい程に純粋な思いで、自分自身を縛ってたってのか。
接したのは短い時間だけど分かる。
はやてはその責任感が強い所が、どこかなのは達に似ている。
なのは達と少し違う所は、はやての視野が彼女達よりも広い所だろうか。
どこかで客観的に判断して、より遠くの事項まで責任を負おうとしてしまう。
同時に、自分が背負うべき事ではないと理解していても、進んで背負ってしまうような厄介な気質らしい。
罪、罪、と言うけれど、はやてのどこに罪があると言うのか。
偶々資質があって闇の書の主に選定され、知らない間に自分を助けようと守護騎士達が動いてしまった。
彼女は最初蒐集を拒否したのにも関わらず、だ。
俺の視点から見れば彼女はなんら罪を犯していない。
むしろ、闇の書に取り付かれ、ずっと不自由な思いをしてきた被害者の一人だ。
それでも彼女は全てを背負って、これは私の罪だからと寂しそうに笑うのだろう。
もっと楽に生きればいいのにと思考を回したせいで、脳が急激に覚醒していく。
「と……あれれ。ごめんな、勝手に喋りすぎたか?」
「あ、ううん! はやてちゃん、なんだか凄く大人っぽく見えたから」
「うん、ちょっと意外で」
いや、その感想はどうよ、フェイト。
怠けていたがる身体に喝を入れる
そのまま深呼吸するとピクリと指先が動いた。
「あー、そうやろか? あの子の……リインフォースの影響かもしれんなあ」
「そっか、そうかもね。
リインフォースさんの想いと力は、はやてちゃんの中に溶けたんだもんね」
なのはの言葉を聞きながら目を開き、上半身をゆっくり起こす。
ダイニングのテーブルでは、はやてが泣きそうな目をしていた。
「あ、はやて……?」
「はやてちゃん?」
「や、ごめん……なんでもない。なんでもないよ!
……あの子が逝って以来どうも涙脆くてあかん。
泣き虫の癖まで溶けてもうたんやろか……あはは、困ったもんやあ」
誤魔化すように目じりの涙を拭いながら笑うはやて。
その笑顔がどう見ても笑っているように思えなくて。
こいつはホントに……強がってどうすんだか。
「馬鹿か、はやては」
「……ジンゴ君、いつの間に起きたん?」
「さっき。ったく、何か無理してんなあとは思ってたけど、そんな風に自分を縛ってんじゃねえよ。
なあ、なのは、フェイト」
呼ぶと二人は無言で立ち上がり、両脇からはやてを挟む。
なのはがそっと親指ではやての涙を拭った。
「え? 二人共……何? どう言う事、ジンゴ君?」
「そう言う時はな、泣いていいんだよ」
「お別れは悲しいもの。そんなに無理して強くなる事ない」
「今いるのは私達だけ。はやてが守りたい騎士達は見てないから」
「今は、俺達がついてっからさ」
「リインフォースさんも、きっと心配したりしないよ」
「あ……」
なのはのその言葉が、はやての最後の堤防を崩す。
彼女はなのはに縋りつくように抱きついて、あの事件が終わってから初めて大声を出して泣いた。
今、この時、ようやく闇の書事件は本当の意味で終結したのだろう。
幸せに暮らしたい、それだけの小さな願いから始まった事件は、関係者全員に大きな悲しみを残した。
叶える事ができなかった想いと、ほんの僅かに遺す事のできた欠片があって。
どんなに泣いても悲しんでも、過去はやり直せないけど、それでも未来を紡いでいく事はできる。
だから俺達は、生きていこうと思えるんだ。
泣き続けるはやての傍に立ちながら、窓の外を見上げる。
冬の高く、けれども澄んだ青空は、いつか見た美しい世界と同じように見える。
だけど、俺の隣にはもうあいつはいない。
俺は相良陣じゃなくて、ジンゴ・M・クローベルとして生きていくから。
彼女達と一緒に、生きていこうと思うから。
だからまた、いつかどこかで会った時に、胸を張って話がしたい。
俺は俺として、元気に頑張って生きてきたと。
悲しい事も苦しい事もへこたれそうな事もあったけど、どうにかしてここまで辿り着いたと。
そんな、誇りに満ちた、話をあいつにしたい。
俺はここで生きていくから、今はさよならだけど、
「……繋がってると、いいな」
そう、この空を通して繋がってるといい。
そんな風に思ってから、あいつにもう一度心の中でさよならを告げた。
きっと、もう最後になるであろうさよならを。
「ジンゴ君? どないしたん?」
「ああ、いや……いい天気だと思ってな」
「……せやねえ」
ようやく泣き止んだはやてが、柔らかく笑んで。
釣られるように俺達も笑顔になる。
元気にただいまーと玄関から聞こえるのは、ヴィータだろうか。
俺達はぞろぞろと守護騎士の皆を迎えに行って。
じゃあ、皆で、楽しく昼飯といきましょうか!
はぴねす!となのはのクロス物って思ってたよりも少ないですよね。
実際書き始める前に検索してみて驚きました。
同じ魔法モノだからもう少しあってもいいのになあと言う気はします。
世界観と言うか魔法観が違うのが原因でしょうか。
メイン連載の方が滞りがちになってきているので、異邦人の更新をこの先するかはちょっと考え中です。
ただ、まだはぴねす!関連の話が殆ど出てきていないので、空白期は飛ばしたとしてもはぴねす!編くらいはアップしたいなあと考えています。
その場合今ある下書きが大幅書き直しになりますが……
細々とした更新になってきていますが、温かい目で見守っていただけると嬉しいです。