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「ユーノは目視での確認を頼む」
「分かった。ジンゴはどうするの?」
「俺は……」
ユーノと合流した俺は、空中で制止すると結界内全体を見渡す。
この位の広さなら問題なさそうだ。
「サーチをかける。
ただこの術式は少々特殊なもので、ビル内部までは確認する事が出来ない。
お前にはサーチ範囲外になってしまう建物の内部を直接確認してもらう。いいか?」
「うん。サーチ中の防御は大丈夫?」
「ああ、あちらはなのは達の対応で手一杯だ。俺に手出しする余裕はないだろう。
対象を見つけたらすぐに捕縛行動に移るのではなくまずは俺に念話してくれ」
「なんで?」
「今あそこで戦っている者を除くと、残っているのは湖の騎士シャマルか書の主。
主の場合広域型の可能性が高く、湖の騎士の場合はなのはからリンカーコアを奪ったアレがある」
「アレか……」
なのはがリンカーコアを強奪された時の事を思い出したのだろう。
ユーノが酷く苦々しい顔をする。
その肩を軽く叩き、顔をこちらに向けた彼を安心されるようににっと口角を上げた。
「だから、見つけたら呼んでくれ。二対一ならアレを使う余裕なんてないはずだ」
「うん、分かった」
「よし、では……」
空を見上げる。
ぶつかり合う魔力と魔力。
彼女達は随分と派手にやっているようだ。
だが、三組ともそう簡単に決着はつきそうにない。
「行こうか!」
「了解!」
飛び立っていったユーノの背中を見ながら目を瞑る。
これから使う魔法は白銀の重力操作能力を用いた単純な魔法だ。
指定範囲の重力を僅かに上げる事で、対象を割り出す単純なサーチ。
メリットは重力操作系の魔法にも関わらず消費魔力が少なめである事。
ただし、建物の内部等では大量のノイズが混ざってしまうので精度が落ちてしまうのがたまに傷だ。
だが、今はそれをフォローできる仲間がいる。
ならば、
「白銀、サポートに回れ。ロブトール!」
≪わあったよ≫
≪gravity search≫
ドクン、リンカーコアが脈動し、結界内に薄く俺の魔力が敷かれていく。
全体に行渡った事を確認して、トリガーワードを呟いた。
「グラビティサーチ」
体感として一〇〇グラム程だろう。
ほんの少しだけ身体が重くなる。
後は重力の影響を受けている生体を割り出すだけ。
「俺、ユーノ、なのは、ヴィータ、フェイト、シグナム、アルフ、ザフィーラ……八名。間違いないか?」
感じ取った対象名を挙げきってから、もう一度確認しようとした所で、
【見つけた!】
結界外を探していたクロからの念話。
【本当か?】
【間違いない。主じゃなくて湖の騎士シャマルだ。魔導書を持っている。
これから降伏勧告に移る】
【まて、本当に一人なのかも定かではないし──】
【奴等は逃げ足が速い。チャンスを掴んだら活かさないと!】
【ちょっ、おい!】
念話が途切れる。
クロ、何をそんなに焦ってるんだ……
舌打ちをして彼の魔力をかすかに感じる方へと飛んでいく。
【ベオ!】
【はっ】
【至急結界を通す対象に俺を加えてくれ】
【私がこちら側に来た時点で、局陣営の分は登録済みです】
【よくやった!】
駆け抜ける。
結界の外に出た瞬間、何の変哲もないビルの屋上でS2Uをシャマルに突きつけているクロがいて、
「!?」
横合いから出てきた何者かに蹴り飛ばされる姿を目撃した。
なんだ……今、どこから出てきた?
吹っ飛ばされたクロは隣のビルの屋上フェンスに当たって止まる。
俺は方向転換してクロの方へと向かいながら、その闖入者を観察していた。
白のジャケットに紺色のパンツ、見た目は制服のようなバリアジャケットだ。
身長は結構な長身で黒髪。
だが、その男の異常性を際立たせているのはその顔に付けられた白い仮面だろう。
「ハラオウン執務官!」
「僕は大丈夫だ。それより奴等を止めないと」
はっと再度彼等の方を向くと、俺達同様戸惑うシャマルの姿があった。
仲間じゃ……ないのか?
風に乗って彼等の声がかすかに届く。
ちらりと隣のクロを見るが、彼は未だ腹を押さえて顔を顰めておりいつも通りには動けそうにない。
「……の書の力を使って……」
「でも、あれは……」
「……減った……また増やせばいい……では遅い」
途切れ途切れでも大まかな意味は取れる。
まずい、時間がねえ!
男の言葉にシャマルが決心した顔を見せるのに気付き二人に向かって飛び立つが、俺の前に仮面が立ちはだかった。
隙が殆どない。
まずいな、かなりの錬度だ。
下手すると俺よりも上……か?
責めあぐねていると少しふらつきながらもクロが俺の隣まで飛んできた。
「何者だ! 連中の仲間か?」
「……」
「答えろ!」
隣でS2Uが構えられると同時、俺も腰を落として構える。
男の後ろでシャマルが魔方陣を展開したのが見えて、焦りと共に飛び出した。
「はっ」
「うおおおおっ」
「ぐはっ」
シャマルに気を取られた瞬間、クロが蹴り飛ばされ、俺の拳もいなされる。
「ナックル!」
≪gravity knuckle≫
「ふんっ」
返しで左拳を突き出すと、今度はがっちり受け止められた。
グラビティナックルを素手で受け止めるだと!?
少なくともトン単位の重量がかかるはずなんだぞ!?
驚きは一瞬。
だがその一瞬が命取りで。
眼前に迫った脚に反応できず、クロと同じように蹴り飛ばされる。
空中で何とか体勢を立て直すと、ここに来て初めて、男は俺達に向かって口を開いた。
「今は動くな。時を待て。それが正しいとすぐに分かる」
どう言う意味だ?
一瞬眉を寄せるも、すぐに膨大な魔力反応に顔を上げる。
気付けば結界上空には巨大な闇色の魔力球が顕現していて。
「しまっ!?」
「撃って、破壊の雷!」
シャマルの声と共に結界に闇色の稲妻が叩きつけられた。
まさか……あの中にはあいつらの仲間もいるんだぞ!?
なのは達は……
「ユーノ、アルフ……」
こうなると今から駆けつけたのでは間に合わない。
防御などの補助魔法を得意とする二人に任せるしかない。
それに、この場も完全に安全と言うわけではないのだ。
結界に弾かれた魔力が闇色の閃光となって俺に降り注ぐ。
「くっ、ガードだ!」
≪protection pawerd≫
轟音と共に目の前が真っ白に塗りつぶされた。
一秒、二秒、三秒、右腕に掛かる震動を白い世界の中で受け止め続ける。
気の遠くなるような長い時間が過ぎて、ようやく視界が回復。
武装局員を動員して張った内部封鎖の結界は、跡形もなく消えてしまっていた。
確認を、急ぐ。
【なのは、フェイト、ユーノ、アルフ、無事か?】
【こっちはなんとかしのげたよ。アルフも手伝ってくれたし】
【うん、ユーノ君とアルフさんに守ってもらったから大丈夫】
【そっちはどうだったんだい?】
【すまない。僕がやられたのと、新手が現れたせいで逃がしてしまった】
【そう……】
沈む彼等の声に項垂れる俺。
その横で、クロが拳を地面に叩きつける。
二度目の敗北。
星だけは変わらず、澄み渡った空に瞬き続けていた。