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そもそもの始まりよりずっと前。
ずっとずっと前。
俺は生粋の日本人だった。
機械工学を学ぶ、タダの日本人の大学生。
そんな俺の記憶は、卒業を控えたあの日、友人と宴会をした後、家に辿り着いた所でぷっつりと途切れている。
ただ、次の瞬間、気がついたら赤ん坊になって、親父に抱かれていた。
当時その事に気付いたばかりの俺は、もの凄く混乱して泣き喚いた記憶がある。
俺の魔法学校入学前、親父がふと昔を思い出したように懐かしげに、
「お前は未熟児でな。
あの時は色んな人の世話になったもんだ」
と、語っていた事を思い出す。
だが、俺は生まれたばかりの頃の事は覚えていない。
俺という成人男性の精神を、赤子の身体に乗せるのはかなり無理があるはずだ。
その為、体が精神に適応するのに時間がかかり、俺と言う自意識が目覚めるのが遅れたのではないかと考えている。
正直俺の意識がはっきりした後の幼児期は思い出したくない。
主に、俺の、男の、プライドを、守るために。
とりあえず、やる事もないんで周りから情報収集をしていたら、そもそもそこが異世界だという事に気がついた。
や、だって地球で魔法とかありえないし。
大真面目に魔法とか言ってるから俺の親父はキチガイかと思ってたらなんか空中に魔方陣みたいなのが出てるし。
ミッドチルダなんて地名も聞いた事がなければ、そもそも世界が1つじゃないときた。
そりゃ並行世界なんて話は物語の中で見た事はあるけど、次元世界ってなんじゃそりゃ、と、当時の俺は本気で思ってたわけで。
でも行動範囲が広がって色々この世界の常識を吸収して行くうちに、認めたくないけど現実だって事を受け入れた。
どうやら俺は死んで、この世界に生まれ変わったのだろうと。
時空の中に数多の世界が存在するなら、地球だって存在するんじゃないかと単純に考えた俺は世界について調べ始め、そして見つけた。
灯台下暗しって言うけどありゃ本当だな。
ヒントは呆れるほど身近な所に転がっていた。
親父自身が地球出身だったのだ。
第97管理外世界。それがミッドチルダにおける地球の位置づけだ。
管理外世界っていうのは、ミッドチルダみたいに魔法が普及しておらず、次元間航行が基本的にされていない世界が大雑把には分類される。
まあミッド側から見ると未開の地って事になるんだろう。むかつく事に。
管理外世界には基本的に干渉しないようにしているらしいんだが、その割りに地球の資料は豊富だった。
なんでも地球出身の魔導師は他の管理外世界出身に比べ多めなんだとか。
閑話休題
俺はミッドより地球の血の方が濃いらしい。
先にも述べたように親父は地球出身でドイツ人とイギリス人のハーフ。
母親はなんとミッド人と日本人のハーフ。
どうでもいいが日本人の血が入ってると聞いて驚いた。
なぜかって俺の容姿は完全に親父似だからだ。
銀髪に蒼眼っなんて言う厨二な見た目。
いったい日本人の血はどこへ行った?
まあ若干親しみやすい顔になっているのが日本人の血の影響なのか?
ちなみに、親父の家は地元じゃそれなりの名士で、母方の祖母さんは日本のちょいと特殊な巫女の家系だったらしい。
ま、ミッドじゃなんの役にも立たんが。
ただ、祖母さんの家系のせいで俺にも特殊な能力が受け継がれてしまっている……はずだったんだが。
いや、一応受け継がれてはいる。
だけどその受け継がれ方が微妙すぎて、なんとも言えん。
ともあれ、自覚のないまま俺は、魂の故郷へ帰還を果たしていたという事になる。
「なんつーか、あれだ。台無し?」
≪時たまキングはわけのわからない事を言いますが、敢えて切り返します。
その台詞が台無しだと≫
「突っ込みサンキュ」
ドラッケンとの掛け合いも慣れたもんだ。
でも、きっとこの世界は俺にとって故郷であって故郷ではない。
そう考えると少し悲しい。
≪ところでキング≫
「ん?」
≪あれは、大変危険なのではないかと私は思います≫
「は?」
相棒に促されるままに見たのは崖の傍、物凄いスピードではいはいしながら無邪気に蝶を追いかける幼児。
「って、おい!?」
ギリギリの位置で笑うそいつは、蝶に夢中で自分がどれだけ危険な場所にいるかわかってない。
「くそっ、親はなにやってやがるっ」
舌打ちをして走り出す。
一気にトップスピードに乗せたが、このままいきゃギリギリってとこか!?
────────interlude
久々の休みなので山で鍛錬をしようと思っていたら、母さんに末妹であるなのはの世話を頼まれた。
かわいい妹の面倒を見るのは吝かではないが、ここの所店の手伝いが多く、体が鈍っているのも事実。
仕方ないのでなのはも遊べるように裏山にある開けた丘に行く事にした。
草原で遊び始めたなのはを尻目に、軽い鍛錬から始める。
型を繰り返してから、相手を想定してシャドウを行う。
想定したのは全盛期の父さん。
結局一回も有効打を与える事はなく、シャドウは終了した。
荒い息を抑え、呼吸を深く直す。
鍛錬終了と同時に、一気に汗が噴出した。
そろそろ帰ろうかと妹に呼びかけようとし、なのはのいた所を見ると姿が見えない。
いつもなら母さん似の笑顔を振りまきながらおとなしく座っているはずだが。
「──くそっ」
きょろきょろと妹をさがしていると子供特有の高い声と舌打ちが聞こえた。
上の妹よりも小さな男の子。
その走る先には探していた妹がいて、
────今にも崖から踏み外しそうだった。
「っ、なのはっ」
気付いたと同時に走る。
なのはが、俺の声を聞いて笑顔で振り向き────ガクンと身体が落ちるのが見えた。
足りない。
こんなんじゃ届かない。
それでも足を動かして、その遅さに絶望しそうになる。
俺は自身の無力さをかみ締めて、
────瞬間、蒼い風と共に、世界に光が溢れた────
────────interlude out
状況は最悪。
兄らしき子供が名前を呼んだ瞬間、その子が振り向いた事で右膝が落ち、バランスを崩した。
ちくしょう、もう魔法の秘匿とか言ってる場合じゃねえっ!
「ドラッケン、セットアップ!」
≪stand by ready, set up≫
瞬時にバリアジャケットを纏う。
暴走の影響で体中が痛い。
「ウェンテ!」
蒼い風を身に纏う。
両手を前に突き出したまま子供が背中から落ちていく。
俺は、戸惑いなく崖から身を躍らせた。
風を操作して幼子を包む。
落下速度を緩め、手が届く、その直前。
その子から桃色の魔力が噴出した。
「嘘だろ、よりにもよってコア持ちかよっ!?」
この年齢でこんな量の魔力を一気に放出したら命に関わる!
瞬時に魔力で強化された腕でなんとか子供を抱きしめると、腕の中の子供はきょとんとした後、俺を見て────笑った。
ちくしょう、絶対、死なせないっ!!!
「白龍王が三子アルギスの名によりて我が血族が願い、不破の名においてアラン・ファルコナーが命ずる。我が力以て、彼の者に癒しと契約による封印を与えんっ」
一息で詠唱を終える。
片手で印をきり、親指を噛み千切るとその子の額に封印の媒介にするため呪を刻む。
「血界封印術式開放────封印!」
≪sealing≫
封印は成功。
噴出していた桃色の魔力が収まる。
とりあえず後であの小僧は殴る事にして、後は飛ぶだけっ!
「ドラッケン!!」
≪ja! boost flier≫
崖の中盤で飛行魔法の展開が終了。
ようやく止まった落下に俺は深く溜息をつく。
トラブルに巻き込まれるのは転生してから随分と慣れたが、今回は飛び切り肝が冷えた。
件の幼子はといえば俺の腕の中でキャッキャとはしゃいでいる。
どうやら空を飛ぶのがいたくお気に召したらしい。
しっかし、落下した直後に知らん人の腕の中でこれだけはしゃげるとは、肝の据わった子供だこと。
「なのはっ」
ようやく辿り着いたのか、崖の上から顔を出したのは酷く憔悴しきった少年の顔。
あれか、俺が落ちた事はスルーか。
ま、身内と他人じゃ扱いが違うのはしょうがないっちゃあしょうがないが。
あ、眼が合った。
「……」
「……」
「…………」
「…………」
≪なにを見詰め合っているのですか、キング≫
「うおっ」
固まってしまった少年をよそに、ドラッケンのおかげで現世復帰を果たした俺はそのままフライヤーで丘に戻った。
地に足が着く。
あー、地面があるって素晴らしいね。
ゆっくりと少年に近づく。
なんだかすっかり懐いて俺の腕の中ではしゃぎまくる子供を左腕に抱え、
右手で思いっきり少年をぶん殴った。
「こんのっ大馬鹿野郎がっ!!!」
殴られた少年は一瞬、俺を見て呆け、
「っ、なのはっ。なのはは無事か!?」
ようやく我に返ったのか、俺に詰め寄ってきた。
「ああ、無事だ。ったく、目ぇ離すんじゃねえよ。
ただでさえこの位の子は好奇心旺盛なんだから」
「あ……ああ、すまない。本当にありがとう」
深く礼をする彼の姿は、本当にこの子の事を思っている者のもので。
未だ体内で暴れまわる魔力のせいで揮わない頭を片手で押さえながらも、良かったと笑みが零れた。
「ま、大事なくてなにより」
「っておい、顔色がかなり悪いが大丈夫か?
それにさっきのはいったい────」
「悪い、も……限界」
それだけ伝え、俺はまたぶっ倒れた。