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目を覚ます。
未だ体内で暴れる魔力を感じるものの、大分ましになっているようで安心した。
「────知らない天井だ」
とりあえずお約束なのでやってみたが、魔力と全身の痛みのせいで気持ちが悪い。
ボケなきゃよかったと真剣に後悔した。
体を起こそうとして、やめる。
どうやら俺はベッドに寝かされているらしい。
とするとここはさっきの少年の家か?
【ドラッケン】
【キング、目が覚めましたか】
念話を繋ぐとすぐに返事があった。
が、これは…………怒ってる?
【ええ、怒ってます。怒ってますとも、私は】
【……わりい】
【そう言うなら無茶する癖を直して下さい。体内の暴走も収まってないのに封印式と魔法使用って、死ぬ気ですか。ええ、ええ、必要だったのはわかってますとも。お人よしのキングがあれを放っておけないのは私にもわかります。でも、でもですよ。もうちょっと安全な方法があるじゃないですか。キングはどれだけ私を心配させれば気が済むんですか。もしかして私を心配させて楽しんでます? そうですか。楽しんでますか。一度きちんと反省していただかねばと思っていたのでちょうどいい機会です。今は体調が悪いようなので控えますが、後できちんと追及させていただきますからね。
…………もう二度とやらないでくださいよ、こんな事】
うわ、久々だよこんなマシンガントーク。
最後の一言を聞いて猛省。
俺こんなにこいつに心配かけてたのか。
【いや、本当に悪かった】
【…………それでももうやらないとは言ってくれないんですね】
あきれたような、諦めたような声が響く。
この2年でこいつも随分人間臭くなったなあ。
と、後に確実にあるであろうドラッケンの説教から現実逃避をしていると、
「あら、目が覚めたのね」
あの幼子と同じ、栗色の髪の優しげな女性が入ってきた。
軋む体をなんとか起こしてベッドに座る。
「起きなくて大丈夫よ」
「いえ、礼儀ですから。
どうやらお世話になったようです。ありがとうございました」
「いいえ、こちらこそ。あの子を助けてくれてありがとう」
「あの……あの子は? それに、ここはどこですか? 俺はどの位倒れてました?」
思わず矢継ぎ早に質問してしまった。
あれ、俺もしかしてちょっとテンパってる?
「落ち着いて。とりあえず2人ともなんの問題もなかったわ。
あなたが運び込まれたのはお昼前だったから、大体3時間位経ってるかしら。
それとここは私の家よ。あなたが助けてくれたのは私の娘なの。」
「そう……ですか。良かった」
溜息と共に力を抜くと、やはり体が痛んだ。
顔に出ていたのか、彼女は心配げにこちらを見ている。
「まだ寝ていた方が」
「お気遣いありがとうございます。
でも、まずあの子を診ないと。
それから事情説明もさせてください」
「うーん、あなたがゆっくり休んだ後じゃ駄目かしら」
「手遅れになる可能性があります。なるべく早い方がいいかと」
「そう」
結局のところ巻き込んでしまった事になる。
その事を説明するのは憂鬱だが、筋は通さないと駄目だろう。
それにあの子は魔力が一気に覚醒したのだ。
封印も力づくだったし、しっかりと確認するまでは気になって休めない。
そんな俺の意思を読み取ったのか、やれやれといった感じで彼女は溜息をつき、すぐに行動へ移した。
「なっ」
「動かないで。体が痛むんでしょう?
リビングに全員揃ってるから連れて行ってあげるわ」
ありがたいが……正直、これはかなり恥ずかしい。
少なくとも累計年齢30越えの男には辛いものが……
【キング】
釘を刺すようにドラッケンからの念話が入る。
仕方なく俺は体の力を抜いた。
「あの」
「はい」
「お願いします」
「ええ、任されました」
そうして彼女はふわりと笑うと、俺を抱えて移動を始める。
ああ、この歳になってお姫様抱っこを体験する事になるとは。
見た目が3歳児なのがせめてもの救いかと俺は心で涙した。
彼女は俺をソファーに座らせると台所へ入って行き、すぐに人数分の湯飲みを持ってきた。
今この場にいるのは俺を含めて6人。
幼子と左頬に青痣を作った少年、少年より幾分か小さな少女、若く笑顔を崩さない男性に、さっきの女性。
どうやら家族らしい。
俺は姿勢を正すと彼等に向き直った。
「まず、倒れてしまった俺を保護してくださってありがとうございました。
俺はアラン、アラン・ファルコナーと申します」
「いやいやこちらこそ、娘を助けてくれてありがとう。
俺は高町士郎。で、こっちが」
「妻の桃子です」
「恭也だ。先程は本当にありがとう」
「美由希です」
最後に、きょとんとしている幼子に顔を向ける。
「で、こっちの子が末っ子のなのはだ」
士郎さんが紹介してくれた。
「ああ、それでまずは何から聞けば良いんだろうなあ」
困ったように士郎さんが頭を掻いた。
まあ、困るよなあ。
聞きたい事は山ほどあるだろうし。
突っ込みどころ満載だし、俺。
「その事なんですが」
「うん、なにかな?」
「まずは謝罪を。
本当に、すみませんでした!」
「えっと、ちょっと待って。
なんでアラン君が謝るのかな?」
俺が深々と頭を下げると士郎さんが慌てて制してきた。
ああ、色々とはしょりすぎだよ、俺。
実は思ってたより体調悪くて頭回ってないのかも。
「すみません。説明しないとわかりませんよね。
えっと、ここは地球の日本で間違いないですか?」
と、俺の質問にきょとんとする子供2名。
いや、末っ子も入ってるから3名か。
「ええ、ここは日本で、海鳴市の藤見町というところよ」
「海鳴市……」
彼等からすれば突飛なこの問いに、平然と答える桃子さんはある意味すごいな。
にしても海鳴市、か。聞いた事のない地名だ。どこかの地方都市か?
いや、疑問は後に回そう。まずは事情説明が先だ。
「そうですか。えっと……なにから話せばいいのやら。
そうですね、魔導師というものをご存知ですか?」
今度は全員が疑問を顔に浮かべ、首を横に振った。
なにやら恭也君が考え込んでいるがまずは置いておく事にして。
「うーん、この辺りは本来なら結構細かい説明がいりますからね。
大雑把に魔法使いと捉えてください。
あっさりわかり易くまとめてしまいますと、俺は異世界から来た魔法使いです」
と、美由希嬢があからさまに訝しげな表情になる。
まあ、普通そうなるよな。
俺も前世でこんな事言われたらまずそいつを精神病院に突っ込んだだろう。
正直自分で言っててキチガイっぽいと思うし。
むしろあまり驚いた様子のないこの夫婦の方がおかしい。
「ふむ、魔法っていうのは具体的にはどんなものなんだい?」
うわ。士郎さん冷静ですね。
普通に質問が来るとは思わなかったよ。
美由希嬢が驚いてるって。
「そうですね、この世界で考えられている魔法使いってちょっとオカルト的なものですよね。
魔力を使って自由自在に現象を生み出すといったイメージなのでは?」
全員が頷いたのを確認してから続きを話す。
「俺達魔導師の使う魔法っていうのは、どちらかといえば科学に分類されます。
魔力というエネルギーを、術者自身が組み立てたプログラムか、もしくはデバイスという魔法の杖にインストールされているプログラムを通す事で、現象として発生させるているものを魔法と呼んでいるんです。
超科学、と言えばいいんでしょうか」
「魔導師っていうのは誰もがなれるのかい?」
「いえ。
体内に、まあちょうどこの胸の辺りなんですが、ここにリンカーコアという器官が存在しているかどうかが魔力を扱えるか否かの分かれ道になります。
魔力が扱えるなら大抵デバイスも扱えますので、魔導師になる事は可能ですね」
軽く見渡して全員が話についてきている事を確認する。
って、恭也君は全然驚いた様子がない。
頷きながら納得するだけかよ。
この夫婦2人は年の功って事でなんとか納得したけど恭也君は……なんでだ?
疑問が顔に出ていたのか、目が合うと恭也君は苦笑いをした。
「俺は宙に浮いてるのを実際見てるからな。
むしろこれで一般人ですと言われた方が信じられん」
ああ、なるほど。
実演するって手があったか。
さて、もう魔力を扱っても平気だろうか。
「ドラッケン。行けるか?」
≪ja, my king≫
これにはさすがに全員驚いたようで、目を丸くして胸元にいる待機モードのドラッケンに注目した。
「こいつは俺の相棒でして。
先程説明した魔法の杖であるデバイスのドラッケンです」
≪my name is drakkhen. nice to meet you≫
「いや、いつも通り喋れよ」
≪了解です≫
なに格好つけてるんだか。
「はー、すごいねえ。喋るネックレスだ」
「はは、まあ確かにこの状態ならただの喋るネックレスですけどね」
感心したように呟く美由希嬢を尻目にドラッケンを握る。
っと、ギリギリ制御可能って所か。
「ドラッケン、セットアップ」
≪stand by ready, set up≫
一瞬光に包まれ、バリアジャケットを纏った。
更に目を丸くする高町家の面々を前に、
「これは一番基礎的な事なんですが。
バリアジャケットと呼ばれる防具を纏う魔法ですね。
現在少し魔力を使いにくい状況なのでこの程度で勘弁してください」
と言ってから解除する。
殆ど魔力を使ってないのにちょっと頭がふらつき、胸の辺りがシクシクと傷む。
こりゃ本格的に暴走の影響が出てるな。
「これだってきちんとした技術体系に則ったものです。
ドラッケンなんかも自作ですし。
デバイスの作成なんかは、ずっと進歩した機械工学によるものと考えてもらって概ね間違いないかと」
「高度に発達した科学は魔法と区別がつかない、か」
「ああ、そんな感じです。いい言葉を知っていらっしゃる」
一息入れましょうか、と俺は桃子さんの入れてくれたお茶を啜った。
湯飲みを置き、少し顔を緩めて面々を見渡す。
ゆっくりと説明したからか、一番理解するのが大変なはずの美由希嬢もきちんとついてきているようだ。
「続きといきましょうか。
先程言った俺自身が異世界人という事についてお話ししましょう。
まあこちらはただ単純に、世界と言うのは幾つもあるというだけの話です」
「それは、どこか別の星にも文明があるという事かしら」
「いえ、そうではなく。
宇宙を丸々まとめて1つの世界と見た上で、世界というのは多数存在するんです」
「ふむ、ではその世界と世界の間はどうなっているんだい?」
「次元空間、というのが存在します。
これは後付の名称ですが、要は世界と世界の間にも空間が存在しているんです。
俺が住んでいた世界がミッドチルダというところなのですが、このミッドチルダを中心に魔法のある世界では、次元空間を渡る技術が開発されていて、世界を超えて交流をする事が可能なんです。
大まかに分けて、中心地が管理する事が可能になった世界を管理世界、公に魔法が存在しないのでなるべく干渉しないようにしている世界が管理外世界と呼ばれていますね。
まあこの呼び方、俺はあまり好きではないんですが」
「地球は魔法がおおっぴらにはないので、管理外世界という事か」
「ええ、第97管理外世界。
それがミッド側から見た地球の位置づけです。
尤もこの世界で文明が発達しているのは地球だけなので、通称はそのまま地球ですけど」
さすがに話が大きくなってきたからか、年長組みは考え込むようなそぶりを見せている。
ふと、美由希嬢が何かに気付いたように声を上げた。
「あれ? 管理外世界って事は干渉しないようにしてるんだよね?
魔法も存在してないはずだし、なんでアラン君はそんなに地球に詳しいの?」
「いい質問です。
魔法が存在しない世界にもリンカーコアを持つ生物は存在してるんです。
そうした人達がミッドに来たりしているので、結構情報自体は入ってくるんですよ。
特に地球は管理外世界から来た人達の中でもダントツに人数が多い」
へー、と納得した様子の美由希嬢を見ながら続ける。
「実際俺もミッドの血より地球の血の方が濃いもので」
「へえ。ご両親がこちらの出身かい?」
「ええ、父がこの世界出身です。
ドイツ人とイギリス人のハーフでして。俺の名前もイギリス準拠ですし。
母はミッド出身ですが、ミッド人と日本人のハーフでした。
つまり地球ベースでミッドのクォーターって所ですね」
あ、ぽかーんとしてる。
まあぱっと見、日本人の血が入ってる容姿じゃないもんなあ、俺。
祖母さんの血が一番濃く現れてるのは俺の特異体質なんだろうし。
「っと、話がずれてしまいましたね。
つまりこの世界でもリンカーコアがある人っていうのは結構いるんです。
まあよっぽどの事がなければ覚醒はしないはずですが」
再び姿勢を正す。
きちんと正面から士郎さんと桃子さんを見ると、2人は俺の雰囲気を感じ取って真剣な顔になった。
「で、最初の話に戻りますが、魔力をを扱える人間にはリンカーコアという器官があります。それで……」
言葉を濁す。
今から告白するのは俺の罪。
俺はあの子の命を危険に晒しただけでなく、これからも続く可能性のある厄介ごとを持ち込んだ疫病神だ。
「助ける際魔法を使用した所、そこに居るなのはちゃんのリンカーコアが俺の魔力に反応して活性化してしまいました。
一気に魔力を放出し始めた為放置すると危険になると判断し、力技で魔力を封印しましたが、それでも後々解けてしまう可能性はゼロじゃありません。
────本当に、すみませんでした」
そうして俺は再び頭を深々と下げた。
本当なら土下座でも足りない位だ。
ミッドでは当たり前のこの力も、この世界では特異な力になる。
後々、この事が原因であの子が事件に巻き込まれたら、俺は彼等に侘びようがない。
正直、謝って許される事ではないと思うが、それでも筋は通しておきたかった。
俺にとって長い沈黙が流れる。
チッチッと時計の針の音が妙に耳に障る。
すっと気配が動いて、ぐっと俺は目を閉じて覚悟をした。
何を言われても受け止める、その覚悟を。
ふわり、と頭に手の感触。
これは……撫でられて、いるのか?
「なあ、アラン君」
静かな士郎さんの声。
相手の目を見ないのは失礼に当たると思い、俺はおずおずと顔を上げた。
優しい目をした、士郎さんがいた。
「ありがとう、な」
士郎さんの言葉に思わず目を見開く。
なぜ礼を言われるのかがわからない。
「なのはを助けてくれて、ありがとう。
痛みをおして事情を話してくれて、ありがとう。
心配してくれて、ありがとう」
強い。
そう、思った。
多分士郎さんは俺が言いたかった事の全てを理解している。
特異は特異を引き寄せる、その意味を。
その上でお礼を言ったのだ、この人は。
呆れたお人よしだ、この人は。
「私からも、ありがとう」
「俺からも、礼を言う。ありがとう」
「アラン君、ありがとう」
この人達は。
≪キング≫
ドラッケンの労わるような声を聞いて、俺は泣いた。
この優しすぎる人達を想って、泣いた。
ボケなきゃよかったと真剣に後悔した。
体を起こそうとして、やめる。
どうやら俺はベッドに寝かされているらしい。
とするとここはさっきの少年の家か?
【ドラッケン】
【キング、目が覚めましたか】
念話を繋ぐとすぐに返事があった。
が、これは…………怒ってる?
【ええ、怒ってます。怒ってますとも、私は】
【……わりい】
【そう言うなら無茶する癖を直して下さい。体内の暴走も収まってないのに封印式と魔法使用って、死ぬ気ですか。ええ、ええ、必要だったのはわかってますとも。お人よしのキングがあれを放っておけないのは私にもわかります。でも、でもですよ。もうちょっと安全な方法があるじゃないですか。キングはどれだけ私を心配させれば気が済むんですか。もしかして私を心配させて楽しんでます? そうですか。楽しんでますか。一度きちんと反省していただかねばと思っていたのでちょうどいい機会です。今は体調が悪いようなので控えますが、後できちんと追及させていただきますからね。
…………もう二度とやらないでくださいよ、こんな事】
うわ、久々だよこんなマシンガントーク。
最後の一言を聞いて猛省。
俺こんなにこいつに心配かけてたのか。
【いや、本当に悪かった】
【…………それでももうやらないとは言ってくれないんですね】
あきれたような、諦めたような声が響く。
この2年でこいつも随分人間臭くなったなあ。
と、後に確実にあるであろうドラッケンの説教から現実逃避をしていると、
「あら、目が覚めたのね」
あの幼子と同じ、栗色の髪の優しげな女性が入ってきた。
軋む体をなんとか起こしてベッドに座る。
「起きなくて大丈夫よ」
「いえ、礼儀ですから。
どうやらお世話になったようです。ありがとうございました」
「いいえ、こちらこそ。あの子を助けてくれてありがとう」
「あの……あの子は? それに、ここはどこですか? 俺はどの位倒れてました?」
思わず矢継ぎ早に質問してしまった。
あれ、俺もしかしてちょっとテンパってる?
「落ち着いて。とりあえず2人ともなんの問題もなかったわ。
あなたが運び込まれたのはお昼前だったから、大体3時間位経ってるかしら。
それとここは私の家よ。あなたが助けてくれたのは私の娘なの。」
「そう……ですか。良かった」
溜息と共に力を抜くと、やはり体が痛んだ。
顔に出ていたのか、彼女は心配げにこちらを見ている。
「まだ寝ていた方が」
「お気遣いありがとうございます。
でも、まずあの子を診ないと。
それから事情説明もさせてください」
「うーん、あなたがゆっくり休んだ後じゃ駄目かしら」
「手遅れになる可能性があります。なるべく早い方がいいかと」
「そう」
結局のところ巻き込んでしまった事になる。
その事を説明するのは憂鬱だが、筋は通さないと駄目だろう。
それにあの子は魔力が一気に覚醒したのだ。
封印も力づくだったし、しっかりと確認するまでは気になって休めない。
そんな俺の意思を読み取ったのか、やれやれといった感じで彼女は溜息をつき、すぐに行動へ移した。
「なっ」
「動かないで。体が痛むんでしょう?
リビングに全員揃ってるから連れて行ってあげるわ」
ありがたいが……正直、これはかなり恥ずかしい。
少なくとも累計年齢30越えの男には辛いものが……
【キング】
釘を刺すようにドラッケンからの念話が入る。
仕方なく俺は体の力を抜いた。
「あの」
「はい」
「お願いします」
「ええ、任されました」
そうして彼女はふわりと笑うと、俺を抱えて移動を始める。
ああ、この歳になってお姫様抱っこを体験する事になるとは。
見た目が3歳児なのがせめてもの救いかと俺は心で涙した。
彼女は俺をソファーに座らせると台所へ入って行き、すぐに人数分の湯飲みを持ってきた。
今この場にいるのは俺を含めて6人。
幼子と左頬に青痣を作った少年、少年より幾分か小さな少女、若く笑顔を崩さない男性に、さっきの女性。
どうやら家族らしい。
俺は姿勢を正すと彼等に向き直った。
「まず、倒れてしまった俺を保護してくださってありがとうございました。
俺はアラン、アラン・ファルコナーと申します」
「いやいやこちらこそ、娘を助けてくれてありがとう。
俺は高町士郎。で、こっちが」
「妻の桃子です」
「恭也だ。先程は本当にありがとう」
「美由希です」
最後に、きょとんとしている幼子に顔を向ける。
「で、こっちの子が末っ子のなのはだ」
士郎さんが紹介してくれた。
「ああ、それでまずは何から聞けば良いんだろうなあ」
困ったように士郎さんが頭を掻いた。
まあ、困るよなあ。
聞きたい事は山ほどあるだろうし。
突っ込みどころ満載だし、俺。
「その事なんですが」
「うん、なにかな?」
「まずは謝罪を。
本当に、すみませんでした!」
「えっと、ちょっと待って。
なんでアラン君が謝るのかな?」
俺が深々と頭を下げると士郎さんが慌てて制してきた。
ああ、色々とはしょりすぎだよ、俺。
実は思ってたより体調悪くて頭回ってないのかも。
「すみません。説明しないとわかりませんよね。
えっと、ここは地球の日本で間違いないですか?」
と、俺の質問にきょとんとする子供2名。
いや、末っ子も入ってるから3名か。
「ええ、ここは日本で、海鳴市の藤見町というところよ」
「海鳴市……」
彼等からすれば突飛なこの問いに、平然と答える桃子さんはある意味すごいな。
にしても海鳴市、か。聞いた事のない地名だ。どこかの地方都市か?
いや、疑問は後に回そう。まずは事情説明が先だ。
「そうですか。えっと……なにから話せばいいのやら。
そうですね、魔導師というものをご存知ですか?」
今度は全員が疑問を顔に浮かべ、首を横に振った。
なにやら恭也君が考え込んでいるがまずは置いておく事にして。
「うーん、この辺りは本来なら結構細かい説明がいりますからね。
大雑把に魔法使いと捉えてください。
あっさりわかり易くまとめてしまいますと、俺は異世界から来た魔法使いです」
と、美由希嬢があからさまに訝しげな表情になる。
まあ、普通そうなるよな。
俺も前世でこんな事言われたらまずそいつを精神病院に突っ込んだだろう。
正直自分で言っててキチガイっぽいと思うし。
むしろあまり驚いた様子のないこの夫婦の方がおかしい。
「ふむ、魔法っていうのは具体的にはどんなものなんだい?」
うわ。士郎さん冷静ですね。
普通に質問が来るとは思わなかったよ。
美由希嬢が驚いてるって。
「そうですね、この世界で考えられている魔法使いってちょっとオカルト的なものですよね。
魔力を使って自由自在に現象を生み出すといったイメージなのでは?」
全員が頷いたのを確認してから続きを話す。
「俺達魔導師の使う魔法っていうのは、どちらかといえば科学に分類されます。
魔力というエネルギーを、術者自身が組み立てたプログラムか、もしくはデバイスという魔法の杖にインストールされているプログラムを通す事で、現象として発生させるているものを魔法と呼んでいるんです。
超科学、と言えばいいんでしょうか」
「魔導師っていうのは誰もがなれるのかい?」
「いえ。
体内に、まあちょうどこの胸の辺りなんですが、ここにリンカーコアという器官が存在しているかどうかが魔力を扱えるか否かの分かれ道になります。
魔力が扱えるなら大抵デバイスも扱えますので、魔導師になる事は可能ですね」
軽く見渡して全員が話についてきている事を確認する。
って、恭也君は全然驚いた様子がない。
頷きながら納得するだけかよ。
この夫婦2人は年の功って事でなんとか納得したけど恭也君は……なんでだ?
疑問が顔に出ていたのか、目が合うと恭也君は苦笑いをした。
「俺は宙に浮いてるのを実際見てるからな。
むしろこれで一般人ですと言われた方が信じられん」
ああ、なるほど。
実演するって手があったか。
さて、もう魔力を扱っても平気だろうか。
「ドラッケン。行けるか?」
≪ja, my king≫
これにはさすがに全員驚いたようで、目を丸くして胸元にいる待機モードのドラッケンに注目した。
「こいつは俺の相棒でして。
先程説明した魔法の杖であるデバイスのドラッケンです」
≪my name is drakkhen. nice to meet you≫
「いや、いつも通り喋れよ」
≪了解です≫
なに格好つけてるんだか。
「はー、すごいねえ。喋るネックレスだ」
「はは、まあ確かにこの状態ならただの喋るネックレスですけどね」
感心したように呟く美由希嬢を尻目にドラッケンを握る。
っと、ギリギリ制御可能って所か。
「ドラッケン、セットアップ」
≪stand by ready, set up≫
一瞬光に包まれ、バリアジャケットを纏った。
更に目を丸くする高町家の面々を前に、
「これは一番基礎的な事なんですが。
バリアジャケットと呼ばれる防具を纏う魔法ですね。
現在少し魔力を使いにくい状況なのでこの程度で勘弁してください」
と言ってから解除する。
殆ど魔力を使ってないのにちょっと頭がふらつき、胸の辺りがシクシクと傷む。
こりゃ本格的に暴走の影響が出てるな。
「これだってきちんとした技術体系に則ったものです。
ドラッケンなんかも自作ですし。
デバイスの作成なんかは、ずっと進歩した機械工学によるものと考えてもらって概ね間違いないかと」
「高度に発達した科学は魔法と区別がつかない、か」
「ああ、そんな感じです。いい言葉を知っていらっしゃる」
一息入れましょうか、と俺は桃子さんの入れてくれたお茶を啜った。
湯飲みを置き、少し顔を緩めて面々を見渡す。
ゆっくりと説明したからか、一番理解するのが大変なはずの美由希嬢もきちんとついてきているようだ。
「続きといきましょうか。
先程言った俺自身が異世界人という事についてお話ししましょう。
まあこちらはただ単純に、世界と言うのは幾つもあるというだけの話です」
「それは、どこか別の星にも文明があるという事かしら」
「いえ、そうではなく。
宇宙を丸々まとめて1つの世界と見た上で、世界というのは多数存在するんです」
「ふむ、ではその世界と世界の間はどうなっているんだい?」
「次元空間、というのが存在します。
これは後付の名称ですが、要は世界と世界の間にも空間が存在しているんです。
俺が住んでいた世界がミッドチルダというところなのですが、このミッドチルダを中心に魔法のある世界では、次元空間を渡る技術が開発されていて、世界を超えて交流をする事が可能なんです。
大まかに分けて、中心地が管理する事が可能になった世界を管理世界、公に魔法が存在しないのでなるべく干渉しないようにしている世界が管理外世界と呼ばれていますね。
まあこの呼び方、俺はあまり好きではないんですが」
「地球は魔法がおおっぴらにはないので、管理外世界という事か」
「ええ、第97管理外世界。
それがミッド側から見た地球の位置づけです。
尤もこの世界で文明が発達しているのは地球だけなので、通称はそのまま地球ですけど」
さすがに話が大きくなってきたからか、年長組みは考え込むようなそぶりを見せている。
ふと、美由希嬢が何かに気付いたように声を上げた。
「あれ? 管理外世界って事は干渉しないようにしてるんだよね?
魔法も存在してないはずだし、なんでアラン君はそんなに地球に詳しいの?」
「いい質問です。
魔法が存在しない世界にもリンカーコアを持つ生物は存在してるんです。
そうした人達がミッドに来たりしているので、結構情報自体は入ってくるんですよ。
特に地球は管理外世界から来た人達の中でもダントツに人数が多い」
へー、と納得した様子の美由希嬢を見ながら続ける。
「実際俺もミッドの血より地球の血の方が濃いもので」
「へえ。ご両親がこちらの出身かい?」
「ええ、父がこの世界出身です。
ドイツ人とイギリス人のハーフでして。俺の名前もイギリス準拠ですし。
母はミッド出身ですが、ミッド人と日本人のハーフでした。
つまり地球ベースでミッドのクォーターって所ですね」
あ、ぽかーんとしてる。
まあぱっと見、日本人の血が入ってる容姿じゃないもんなあ、俺。
祖母さんの血が一番濃く現れてるのは俺の特異体質なんだろうし。
「っと、話がずれてしまいましたね。
つまりこの世界でもリンカーコアがある人っていうのは結構いるんです。
まあよっぽどの事がなければ覚醒はしないはずですが」
再び姿勢を正す。
きちんと正面から士郎さんと桃子さんを見ると、2人は俺の雰囲気を感じ取って真剣な顔になった。
「で、最初の話に戻りますが、魔力をを扱える人間にはリンカーコアという器官があります。それで……」
言葉を濁す。
今から告白するのは俺の罪。
俺はあの子の命を危険に晒しただけでなく、これからも続く可能性のある厄介ごとを持ち込んだ疫病神だ。
「助ける際魔法を使用した所、そこに居るなのはちゃんのリンカーコアが俺の魔力に反応して活性化してしまいました。
一気に魔力を放出し始めた為放置すると危険になると判断し、力技で魔力を封印しましたが、それでも後々解けてしまう可能性はゼロじゃありません。
────本当に、すみませんでした」
そうして俺は再び頭を深々と下げた。
本当なら土下座でも足りない位だ。
ミッドでは当たり前のこの力も、この世界では特異な力になる。
後々、この事が原因であの子が事件に巻き込まれたら、俺は彼等に侘びようがない。
正直、謝って許される事ではないと思うが、それでも筋は通しておきたかった。
俺にとって長い沈黙が流れる。
チッチッと時計の針の音が妙に耳に障る。
すっと気配が動いて、ぐっと俺は目を閉じて覚悟をした。
何を言われても受け止める、その覚悟を。
ふわり、と頭に手の感触。
これは……撫でられて、いるのか?
「なあ、アラン君」
静かな士郎さんの声。
相手の目を見ないのは失礼に当たると思い、俺はおずおずと顔を上げた。
優しい目をした、士郎さんがいた。
「ありがとう、な」
士郎さんの言葉に思わず目を見開く。
なぜ礼を言われるのかがわからない。
「なのはを助けてくれて、ありがとう。
痛みをおして事情を話してくれて、ありがとう。
心配してくれて、ありがとう」
強い。
そう、思った。
多分士郎さんは俺が言いたかった事の全てを理解している。
特異は特異を引き寄せる、その意味を。
その上でお礼を言ったのだ、この人は。
呆れたお人よしだ、この人は。
「私からも、ありがとう」
「俺からも、礼を言う。ありがとう」
「アラン君、ありがとう」
この人達は。
≪キング≫
ドラッケンの労わるような声を聞いて、俺は泣いた。
この優しすぎる人達を想って、泣いた。
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この記事にコメントする
ちょっと違和感
初めまして。ここまで読んだ中でおかしいなと思ったことがあります。
まず三歳児が幼児をキャッチできるのか。それと高町家の人達が子供の言うことに対して自然に受け入れすぎているという事。ミッドでは子供の精神年齢が高いのか?などの質問を高町家に聞かせた方が流れ的に自然かな~と思いました。
まだ全読してないし一回しか読んでないので間違ったことを言ってるかもしれないです。そしたらごめんなさい。
まず三歳児が幼児をキャッチできるのか。それと高町家の人達が子供の言うことに対して自然に受け入れすぎているという事。ミッドでは子供の精神年齢が高いのか?などの質問を高町家に聞かせた方が流れ的に自然かな~と思いました。
まだ全読してないし一回しか読んでないので間違ったことを言ってるかもしれないです。そしたらごめんなさい。
>アルさん
確かに、ちょっと違和感がありますね。
高町夫妻なら大丈夫、と言う二次創作界のお約束が俺の中にも根付いてしまっていたようです。
三歳児がキャッチできると言うのは魔法による強化が入っているからなのですが……見直してみたらその旨の記述が入っていませんでしたね。
そちらの方はなるべく速やかに修正したいと思います。
高町家については…………後でその話が少しでるんですよね。
修正がちょっと多くなりそうなので、時間のある時に話の流れを再構成したいと思います。
ご指摘ありがとうございました。
なにぶん処女作の為稚拙な文章ですが、これからも頑張っていきたいのでお付き合いいただけると幸いです。
お返事が遅くなり申し訳ありませんでした。
それでは。
高町夫妻なら大丈夫、と言う二次創作界のお約束が俺の中にも根付いてしまっていたようです。
三歳児がキャッチできると言うのは魔法による強化が入っているからなのですが……見直してみたらその旨の記述が入っていませんでしたね。
そちらの方はなるべく速やかに修正したいと思います。
高町家については…………後でその話が少しでるんですよね。
修正がちょっと多くなりそうなので、時間のある時に話の流れを再構成したいと思います。
ご指摘ありがとうございました。
なにぶん処女作の為稚拙な文章ですが、これからも頑張っていきたいのでお付き合いいただけると幸いです。
お返事が遅くなり申し訳ありませんでした。
それでは。
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内海 トーヤ
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