[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
────────interlude
どうして……?
ぐるぐると思考が回る。
何度も何度も同じ疑問が頭の中で繰り返され、脳内が埋め尽くされる。
回りまわって、耐え切れなくて、結局疑問は私の口から零れ落ちた。
「どうして私を襲うの!? ────ヴィータちゃん!!」
「うるせえっ! あたしは、お前なんて知らないっ! 気安く──呼ぶなあっ!!!」
≪todichschlag≫
「なのはっ!?」
≪remote protection≫
ヴィータちゃんが振るったグラーフアイゼンをすんでの所でユーノ君が止めてくれる。
だけど、あっちは力を抜く様子もない。
知ってる、これは──っ!?
判断を下すのは早かった。
私が後退を始めると同時、
「おらああああっ、ぶち抜けアイゼン!!」
≪cartridge load≫
カートリッジシステムが、うなる。
パキンと軽い音がして、ユーノ君のともすれば私よりも硬い筈のプロテクションがあっさりと砕け散った。
振りぬかれたグラーフアイゼンは私の胸元にあるリボンを掠めて。
その間にも私は呼びかけをやめられない。
まだ、希望を持っていたかったから。
「やだ……やだよ、こんなの。どうしてなの、ヴィータちゃん」
今の攻撃、私が知っていなければ戦闘不能に追い込まれてもおかしくない一撃だった。
そう、私がヴィータちゃんの攻撃は何もかもを粉砕すると知っていなければ、今頃きっと私は意識不明だ。
私の言葉にヴィータちゃんはわずらわしげに首を振ると、真っ直ぐにその鉄槌を私達に向ける。
味方のはずの、私とユーノ君に。
「どう言うわけか知んねえけど……お前等はあたしを知ってるらしいな」
「ヴィータちゃん」
「だけどそんなのあたしにゃ関係ねえ。
お前等のリンカーコアが、アタシ達には必要なんだ!」
喜色に染まった私の声は、怒りまじりのヴィータちゃんにかき消されて。
あの子の周囲に鉄球がいくつも浮かび、魔法がスタンバイされる。
【なのは!】
【ユーノ君! あの……これどう言う事!?】
【僕にもよくわからない。
だけど……今のヴィータは本当に僕達の事を知らないみたいだ】
【84%の確率で彼女は鉄槌の騎士です。
パーフェクトから程遠いのがいささか気になりますがね】
どう言う事!?
ミネルヴァの解析は驚く程正確だ。
なのにミネルヴァの解析では、目の前の女の子は100%ヴィータちゃんだと断言できないと言う。
見た目は間違いなくヴィータちゃんなのに、8割方しか確定できないと言う。
「いっけえええええっ!!」
≪schwalbefliegen≫
空に響くあの子の声。
それは大半が怒りに染まったものだったけど、ほんの僅かに悲しみを伴っていて。
ぞくり、背筋に奔った悪寒に従い身体を前に投げ出す。
それと同時、一瞬前まで私がいた所を赤い弾丸が通り過ぎていった。
ああ、そっか……私、認めたくなかったんだ。
ピンチのはずなのに、そんな考えが浮かぶ。
何を認めたくなかったなんて決まっている。
目の前にいる泣そうな顔のあの子が、敵だと言う事を。
私達の知るヴィータちゃんとは、別人だって事を。
だってヴィータちゃんは、お兄ちゃんの指示を受けて、シルフィやシグナムさんと一緒に家にいるはずなんだから。
「……シュート」
≪divine shooter≫
体勢は崩れている。
だけどわかる。
私の右手前方にはきっとあの子がいて。
そして、泣いてる。
必死に、助けてって、泣いてる。
「なのは、何を!?」
「ユーノ君、行こう。あの子、止めてあげなくちゃ」
「だってヴィータは──」
「ヴィータちゃん、今はお家にいるの。目の前の子とは別人なんだよ、ユーノ君」
≪なるほど。それで私の解析結果がパーフェクトではなかったわけですか≫
ミネルヴァの冷静な声を聞きながら、私はベオウルフを組み替える。
いつものナックルフォームではなく、バスターフォームに。
だってここにはユーノ君がいる。
1人きりで頑張る必要なんて、どこにもない。
ユーノ君は戸惑った表情ながら、そっと私の方へ身を寄せた。
「なんなんだよ、お前等……」
悲しい目をしたあの子は、私のシューターを叩き落した体勢のまま荒い息をついていて。
怒りに染まった青い瞳が私を貫く。
それに負けぬよう、真っ直ぐに彼女を見た。
「なんなんだよ、お前!!」
「……高町なのは。パートナーはベオウルフ」
「僕はユーノ・スクライア。この子はミネルヴァ」
「「貴女を……止めます!」」
「まさか……管理局か!?」
「違うよ」
驚きにトーンの上がる彼女の言葉を即座に否定する。
私は管理局の魔導師としてここに立っているわけではないから。
そもそも私は民間魔導師だけど、そう言う話でもない。
私は私として、この子と対峙しなきゃならない。
そんな、確信があった。
「じゃあ……じゃあなんでアタシの邪魔をするんだ!
管理局じゃねえなら引っ込んでろよぉっ!!」
真っ直ぐに突っ込んでくる、愚直な一撃。
それを私は、バスターフォームのままがっちりと受け止める。
至近に見える彼女の瞳が、一瞬揺らいだ気がした。
「退かないよ」
「お前……何を泣いて……」
「泣いてる子は放っておけないもの……だから私は退かない。ユーノ君!」
≪pin point protection≫
「くっ」
振るわれるユーノ君の拳にあの子は一旦退いて。
私達を戸惑った目で見てくる。
私はそのまま、ベオウルフを彼女に向けた。
「退けないの……だって、きっと戦ってる。貴女も……お兄ちゃん達も」
だから、退けない。
ここで退いたら、ヴィータちゃんの友達を名乗る事も、お兄ちゃんの妹を名乗る事もできなくなるって言う確信がある。
泣いてる子が気になって、気になる故に関わらずにはいられない。
そうやって自分の想いに正直に生きてきたから。
ここで退いたら、私は高町なのはでなくなってしまう。
「退かない! 貴女が泣いてる理由を知るまでは!!」
「泣いてるのはお前だろ! このっ……悪魔め!!」
すとん、とその単語が胸に落ちた。
彼女の言う通り私は涙を流していて。
何故だか止まらないそれをジャケットの袖で拭う。
どうして涙が溢れるのか、わからない。
だけど、わからない心のままベオウルフをその場で振るう。
右から左へ、薙いだ後には浮かぶいくつもの光球。
≪divine set≫
≪cakram bind set≫
半身になった私の背中に、トンと合わせられた温かい背中。
ここには、ユーノ君もいる。
1人じゃない事が、私に踏み出す勇気を与えてくれる。
だから私は言おう。
私が、高町なのはでいる為に。
胸を張ったまま、お兄ちゃんの妹でいられるように。
「悪魔で……いいよ」
「なのは……」
それが悪魔のようだと言うのならば悪魔でも構わない。
もう、自分がどんな顔をしているのかもわからない。
だけどこれだけは確かだから、この想いは間違いじゃないと信じたから。
「それで貴女が……泣き止んでくれるのなら──」
「てめえ……」
「──私は、悪魔でいい!!」
そうして私は口元を不敵に吊り上げる。
まるでお兄ちゃんがいつもやるように。
あの子の言った、悪魔と言う言葉を真実にするように。
さあ、悪役を────通しに行こう。
────────interlude out
空間に金属のかち合う音と荒い息のみが響く。
呼吸もままならないまま、俺はただ前に出て重くなった両腕をひたすら振るって。
奴が自在に操る剣に左の鉄甲を合わせ、そのまま右拳を突き出す。
俺の拳は首を逸らすことで避けられたが、そのまま体幹を捻り繰り出すのは肘。
紙一重でかわした奴は、珍しくも右足を振り上げ蹴りを放ってきた。
慣性を無視して突き下ろした右肘に、ぶちぶちと嫌な音が聞こえる。
まずいな、筋が逝ったか?
状況は俺に不利。
そもそも超一流の剣術の腕を持つシグナム。
同じような者であり、劣化コピーとも呼べる奴の技だが、一流である事には変わりない。
つまるところ、向こうの得意とする間合いで戦えるわけもなく。
かと言って距離を取ればシュランゲフォルムがあちらにはある。
どちらも俺の負けがほぼ確定な戦場を選択する勇気は俺にはなかった。
いや、きっとそれは蛮勇だ。
「くっ」
「甘い!」
その結果、俺は接近戦より更に間合いを縮め、超接近戦を選択せざるを得なかった。
ここなら奴は剣を振り回しにくいと踏んだからだ。
なのだが。
俺の膝蹴りはあっさりと奴に掴まれる。
そう、俺はこのフィールドでさえ、相手に押され気味だった。
くそっ、まともな蹴りが使えないのが痛いな。
俺の周りには格闘技を使うのがザフィーラくらいしかいない。
同じく徒手空拳のアルフはそもそもそこまで模擬戦を好まない。
よくよく考えればこのザフィーラとの模擬戦も、頻繁に乱入してくるシグナムに潰されてばかりだ。
俺には、このレンジでの戦闘経験が圧倒的に不足していた。
どこまでもシグナムに苦しめられるってどうなんだか。
さて、思い出せよ、俺……俺は昔、どうやって戦ってた?
頼りになるのはずっとずっと昔、今の俺になるよりも前に得たはずの戦闘経験。
だと言うのにそれは、あいつと一緒になった影響か薄く掠れていて。
回転数を上げ、手数を増やす。
それでも俺が繰り出す攻撃は軽く相手に受け止められていた。
「……フレット・ウネ・ウェンテ」
「何を──」
「逆巻け 旋風!!」
≪wind knuckle≫
「む!?」
≪panzergeist≫
これでも駄目か……
風を纏わせた俺の一撃は、奴が展開した装身型バリアに阻まれる。
しかし、物理衝撃を伴った俺の攻撃全てを防ぐのは無理だったようだ。
尤も、通っただろうダメージは微々たる物だが。
シグナムとそっくりな容姿をもつあいつは、シグナムと同じ仕草で眉を顰めて。
「解せんな……」
「何っ……がだ……?」
「貴様は強い……だが、まだ底を見せたわけではなかろう?」
わからない、目の前の騎士が何を求めているのかが。
大体彼女は俺を倒し、この場を押し通るのではなかったのだろうか。
「久々に心躍る戦いだ。にも関わらず、貴様の動きはどこかぎこちない。
貴様……何を恐れている?」
どくん、と心臓が跳ねて。
何を言われたのか、何を言いたいのか、理解できない。
そんな俺の心情を読み取ったのか、奴は僅かに失望したような目を俺に向けた。
ざり、と何かが逆撫でされる感触があって。
「……見るなよ」
「何?」
「その目で、俺を────見るなあっ!!」
知ってる、知っていた、最初から理解していた。
だって俺は逃げ続けている。
過去から、今から、そして全てから。
恐ろしくて、蓋をして、見なくてすむようにって目を背けていた。
「ちっくしょう!!」
だけど、戦友とそっくりなその瞳が失望に染まる事が、俺に火を灯す。
そんな事ではアラン・F・高町は張れないと、そう主張する。
ああくそ、やってやろうじゃねえか!
やりきれない感情が奥の方で熱い熱を持ってマグマのように渦巻いて。
俺を中心に、爆発的に巻き起こるのは魔力の奔流ではなく、風。
気圧され後退した奴とは対照的に、中心地である俺の周辺は凪いで。
その最中で、俺は動きの鈍くなった右手を突き出し、握る。
手を伸ばすのは現実ではなく俺にとって禁忌の記憶とも言える物。
後悔も戸惑いも全て抱えて突き進むと決めた。
だから、こんな所で足踏みなんてしていられない。
だから、アレを引っ張り出す。
≪……いいんですか、キング?≫
「ドラッケン?」
≪私は貴方に何があったかを知りません。
ですが、それがキングにとって苦しみの象徴だと言う事くらいはわかります≫
そうか……お前は俺とリンクしてるんだもんな。
俺の感情くらいはわかるか。
≪だからこそ私は貴方に今一度問いかけます。
その苦しみを抱えて生きる事は、貴方にとってつらい事ではないかと≫
本当に、本当に、よくできた相棒だ。
俺にはもったいなすぎるくらいに。
だけど、
「シグナムは鉄面皮だけどさ……凄え優しく笑うんだ」
≪キング……?≫
「情に厚くて、本当にいい奴でさ。何度も挫けそうになる俺の背中を押してくれた」
返す相棒は無言。
こいつはきっとわかっていたんだろう。
俺が、どんな結論を出すのかなんて最初から。
それでも問いかけたのは、こいつなりの優しさか、それとも厳しさか。
「俺には……目の前のあいつが俺以上に苦しんでいるように見える」
きっとそれは、ありえたかもしれない可能性。
俺となのはがはやてと出会わず、闇の書が発動していたのなら。
きっと侵食はもっと進んで、はやては死にかけて。
シグナム達ははやての声も振り切って、あの子を助ける為にリンカーコアを蒐集していただろう。
このシグナムははやての事を知らないようだけど、俺には同じに見える。
騎士としての矜持を汚したとしても、きっと。
冷静を装って、心で泣いて、そうして世界と戦ったに違いない。
あいつはそんな奴だから、眩しすぎる程に真っ直ぐな奴だから。
だから、言い訳をしない。
立ち止まっても、誰にも責められないとしても。
だから!
「止めるぞ……俺の、全力全開で」
≪やれやれ、相変わらず欲張りですね、私の“マスター”は≫
「苦しんでいる奴を止めてやれないで、何が魔法使いだ!」
鷲掴む。
俺の、生きてきた証を。
再び駆け巡る記憶には本当に懐かしい人達の顔があって。
よみがえるのはかつての先輩の言葉。
『知ってるか? 格闘技ってのはよく考えられててな、地面を踏んだ力をそのまま腕に伝えられれば凄い威力を発揮するんだ。
それこそお前くらいの体格の奴が2mを超えた男を容易く打倒できる位にはな』
自分で自分の事を忘れるなんて、ホント、馬鹿げてるよな……
きっと俺は無意識に記憶の奥底に沈めていた。
この大切な人達との日々を。
自分の手が赤に染まった事を意識しないようにしようと、意識しすぎたせいで。
認めよう。
嗚呼、認めようじゃないか。
俺は……人殺しだ。
右手を引いて腰溜めに構える。
2対のビットが形作るフローターフィールドは回転率を上げ、俺にとって理想的な足場を作り出す。
静かに深呼吸すると、風が鳴動して。
俺とありえたかもしれないシグナムの間にある壁を取り払っていく。
「welcome to the world[ようこそ、このクソッタレな世界へ]」
≪blust knuckle≫
構えたまま、全ての風が俺の右拳に集中して。
当然の事ながら、取り払われた壁の向こう、厳しい表情の彼女がくっきりと見えた。
「シグナム……と、あえて呼ばせてもらおうか。
お前は俺の知るシグナムとは少し違うけど……俺さ、シグナムの事、嫌いじゃなかったよ」
「戯言を……行くぞ!」
シグナムは愚直なまでに愛剣を振り上げる。
それに俺は、何故だかわからないけど、自然と笑った。
「我流奥義──」
「紫電──」
踏み込みは、同時。
「────絶砲!!」「────一閃!!」
蒼と薄紫が交錯する。
本当なら身の危険を感じる所なのだが、何故だか俺は安心していた。
それでこそだ。
そう言うお前だからこそ、俺はあの子を任せられる。
違う世界で道を違えても、きっとお前は真っ直ぐに進んで行くだろうから。
右脇のバリアジャケットが弾け飛ぶ。
だけど俺は早々に構えを解くと、遥か空を見上げた。
警戒しよう等と言う気は微塵も起きなかった。
もう、戦いは終わったのだから。
「見ろよシグナム。日が……沈む」
「ああ……美しいな、この世界は」
「……そうだな」
振り返った先、奴は宙に片膝をついたままぼんやりと空を仰いで。
揺らぐように霞んでいく彼女の身体に、還るのだと理解した。
「何か言い残したい事はあるか?」
「……ない、と言いたい所だが、未練だらけだ。
友や同胞を助ける為に、私は走り続けなければならなかったのだが……まさか貴様との戦いにこれほど没頭してしまうとはな」
「……」
「魔法使いと言ったな。貴様、名は?」
「アラン・F・高町。お前ではないシグナムの、友となった男だ」
「アラン・F・高町、か……覚えておこう。
いや、もう私には覚えていられないのだったか」
そう残念そうに首を振った彼女は、もう腰元まで消えていた。
「魔法使い……後を、頼む」
「ああ。悲しい夢は俺が終わらせるよ、必ず」
「悲しい夢か……そうか、そうなのだな。
私はこれでやっと…………争わなくてすむ」
「good night」
最後の言葉に軽く微笑むと、あいつは跡形もなく消え去って。
同時に、展開されていた結界も薄れていく。
目を閉じる。
彼女の生き様に、俺は何も答えてやる事はできない。
きっとこれは、すぐに覚めてしまう一時の夢だったのだから。
だけどたった1つ、俺にもできる事があって。
感謝を……俺はきっと、お前を忘れない。
様々な物を振り切って、騎士としての誇りも汚して、それでも誰かの為に戦っていたあいつの事を。
俺だけは忘れないでいよう。
≪……背負いましたか?≫
「ああ。お前にも心配かけたな。俺は……大丈夫だから」
≪…………全然そんな顔していませんよ。
表情くらい隠せるようになってから言ってください、この青二才が≫
「ぬかせ。お前の方が年下だろうが」
そう言って、少しだけ笑う。
こいつが相棒で、心からよかったと。
そう思いそっと目を伏せて、それから水平線を見た。
まだ結界はいくつも残っている。
そして、あいつを倒した俺には進み続ける義務がある。
そうだな……俺達はこんな所で立ち止まる事はできない。
気合を入れ直し、次の結界へ向かおうとした所でタイミングよく通信が入った。
『先生! よかった、繋がった……』
「クロノか。どうした、そんなに慌てて」
『どうもこうもありませんよ!
さっきからずっと呼びかけていたのに、全然繋がらなくて……』
相手はお馴染みになってきた、焦り混じりの表情のクロノ。
受け渡される情報をまとめていくとつまりは、
「あの結界内には通信が通じないらしいな。
それでクロノ、何かわかった事はあるか?」
『あ、はい。丁度その事で連絡したんです。
ユーノから受け取った情報とアースラで解析できたデータ。
そこからボクなりに推測したんですが──』
空は茜色。
どうやら俺達の戦いは、まだ終わってくれないらしい。
────────interlude
ここ……どこだ?
目まぐるしく巡る世界に、俺はたった1人で。
何もかもが虚構だらけ[うそっぱち]に見えた。
「どこなんだよ、ここは……」
言葉にしても、返事は、ない。
ここには俺しかいないのだから。
何も、ない。
暑くもなく、寒くもなく。
ただ風だけが吹き抜けて。
「どうして俺は空中に立っていられる!」
黄昏の空は、何も応えない。
俺は何かに突き動かされるがまま、ただ叫んだ。
「答えろ! 世界!!」
何も知らない。
何もわからない。
ただ────悲しかった。
────────interlude out