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舞台裏では in 原作前
その1.母の気持ち、師の気持ち
「んじゃ、今日の訓練はここまで」
「あ……ありがとう、ございました……」
息も切れ切れと言った様子で頭を下げると、クロ坊はその場にへたり込んだ。
このままにしておくのもなんなので、訓練場の脇に置いておいたペットボトルを投げ渡してやる。
少年と言うにはまだ幼すぎる彼は、肩で息をしながら再度礼を言い、ボトルに口をつけた。
「ん?」
端末に反応。
起動させると予想通り、緑色の髪をした女性、目の前の子供の母親が表示される。
『アラン君、今いいかしら?』
「んー、丁度クロ坊の訓練が終わったとこだけど、どうかした?」
『……ちょっと、ね』
どうもここでは話せないことらしい。
ちらりとクロ坊に目をやると、ボクの事は気にしないで下さいと言って来たので、早めに部屋に戻って休息を取るよう言い渡すと訓練場を出た。
「ん、出たよ」
『そう……クロノの事なんだけどね』
複雑な顔のまま彼女は言葉を濁して。
なんとなく何が聞きたいか分かった気がした。
『様子……どう、かしら?』
「リン姉が聞きたいのは……クロ坊がああまでして訓練に打ち込む理由?」
『っ!?』
「多分な、クロ坊もわかってるんだよ。だけど理性と感情は別物だからさ。
言葉で伝えて、止められるようなものじゃないんだ…………復讐心ってのはな」
『……あなたも、そうなの?』
俺は……どうだろうか。
自問自答してみる。
確かに闇の書を恨む気持ちがないと言ったら嘘になるだろう。
でもそれ以上に、親父の言葉が忘れられない。
「『どうか幸せに』か……」
『アラン君?』
「いや、なんでもない。
俺は……そうだな、きっと直接的な復讐心なんて持ってないよ」
『……』
「親父はさ、俺に幸せになれって言った。
思うんだ。闇の書に直接復讐した所で俺は幸せになれるのかなって」
多分、無理だ。
結局アレは物でしかなくて、俺が復讐した所でそれは八つ当たりに過ぎない。
そう考えられてしまう程度の知性がすでに備わってしまっている。
難儀なものだと内心溜息をついた。
もしもこの身が本当に子供だったなら、周りに迷惑をかけながら我儘に生きる事もできただろう。
だけど、中途半端に大人になってしまっている俺にそれは無理で、感情を持て余すくらいしかできる事がない。
時間がその内この感情を解消してくれる、そう考えてしまう自分自身に反吐が出そうだ。
「リン姉」
『……何かしら?』
「クロ坊の事は俺に任せてくれないか。
見てやれる時間はそう長くないだろうけど、俺が教え終わるまでになんとかしてあいつの目を外に向けさせて見せるから」
それが、拙いながらも師となった俺の役割だろう。
彼女はしばらく俺の目を見つめ、これ見よがしに溜息をついてみせた。
俺に向いているわけではなさそうなので、自分に対してついたのだろう。
『お願いするわ。今の私だとあの子の感情を逆なでしちゃいそうだもの』
「まあ、適度にコミュニケーションは取っといてくれよ?
じゃなきゃひねくれるぜ、俺みたいに」
『それは怖いわね』
互いに冗談だと分かっているので苦笑い。
そのまま通信を終えて俺は大きく嘆息した。
責任重大だな、こりゃ。
誰かの師になるとはそう言う事だ。
首をごきりと鳴らすと、俺は今日のデータを元に訓練メニューを組みなおす為、ゆっくりと自室に向かった。