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高町なのははただひたすらに自分を責めていた。
ユーノを手伝い、ジュエルシードを探し始めてからもう1週間が経つ。
逃げてしまった仔狼の事は気になっていたが、ある意味でオルトロスがいれば彼は無事だろうと言う安心があった。
その傍ら、遊びに言った先のプールで一つ、夜の学校で一つとジュエルシード探しの方はこれまで順調にきていたのだ。
何故行く先々にジュエルシードがあるのか、実は自分は運が悪いんじゃないか等とも考えたが、それでも順調だった。
だけど、目の前の光景は、きっと上手く行くと考えていたなのはの考えを見事に打ち砕いてくれていた。
「なのは……」
肩に乗るフェレット、ユーノは目の前にあるはずのジュエルシードが気にかかっているのか、早く封印しないとと促してくる。
そんな事はないと分かっているのに、それさえもお前のせいだと言われているようでなのははつらかった。
休日に誘われたジュニアサッカーの試合観戦、試合後翠屋でアリサやすずかと言った親友達とお茶をしていた時、彼女は確かにジュエルシードの気配を感じ取っていたのだから。
恐らく、サッカーチームの少年の一人が持っていたのではないかと思う。
だけど彼女はこれまでに溜まっていた疲労も手伝い、気のせいだと断定した。
それが──
「なのは?」
この、結果だ。
街を覆う世界樹のような大木。
ユーノが咄嗟に結界を張ってくれたが、少なからず街にも被害が出ているだろう。
ビル屋上から見渡せる街の荒れ果てた風景が、なのはには自分の罪の顕れにも思えた。
今からその罪が消せるとは決して思えない。
だけれども、少しでも早くこの事態を収めるべく、なのはは手にした力、レイジングハートに魔力を籠める。
「……ユーノ君、こう言う時はどうしたらいいの?」
「え……?」
「ユーノ君!」
必死に懇願するような響きを持った呼びかけに、ユーノは戸惑いながら、接近して元となっている部分を見つけないと無理だと答える。
だが、その方法にも問題があった。
「でもこれだけ広い範囲に広がっちゃうと、どうやって探していいか……」
「元を見つければいいんだね?」
「……え?」
困惑するユーノを他所に、なのははレイジングハートを構えた。
彼女には確信がある。
自分が求めれば手の中に納まっている彼女は応えてくれる、と。
そして、魔導師の杖レイジングハートは、主の求めるがままに術式を組み上げ発動した。
≪area search≫
輝くのは白とピンクで形作られた杖の赤いコア。
なのはが彼女を振るうと地面には大きな桜色の魔方陣が描かれ、
「リリカル……マジカル……探して、災厄の根源を!!」
瞬間、何条もの桜色の帯が町中に広がる。
一つ一つを確かめるよう、なのはは目を閉じて集中し、結果、酷く荒らされた街を間近で目の当たりにする事となった。
想像以上に酷い街の様子に身を引き裂かれるような思いを感じながらも、なのはは集中を切らさない。
そんな中、木の幹に挟まれるように存在する光る繭のような物を見つけた。
より視点を近づけてみれば、繭の内側に見覚えのある少年サッカーのゴールキーパーとマネージャーの姿を認める事ができた。
ゴールキーパーは間違いなく、なのはがジュエルシードらしき反応を感じた時近くにいた少年だ。
「見つけた!」
「本当!?」
「すぐ封印するから!」
「ここからじゃ無理だよ。近くに行かなきゃ!」
「できるよ! 大丈夫!!」
止めるユーノの判断は本来なら一考の価値はあっただろう。
しかし、なのはは一刻も早くこの事態を収めたかった。
それが、少しでも早く街を元に戻したいからなのか、自分自身の罪の形を早く消したいからなのかはわからない。
確かな事は、彼女は100m以上離れた位置からでも封印が可能だとどこかで確信している事と、
「そうだよね、レイジングハート……」
≪shooting mode ... set up≫
二つ又の槍へ姿を変えたレイジングハートもそれを疑っていない事。
そして、
「えっ!?」
災厄の元へ至る道が黒き刃によって切り拓かれた事のみだ。
「あれは……」
【封印するなら早くしろ。うだうだするな、ニンゲン】
【兄弟、この程度じゃ借りは返せませんよ?】
【ふんっ、元よりこれで全てを返せるなど思っておらん】
聞いた事のある女声と聞き覚えのない男声が脳に響く。
直感でなのははその男声があの狼のものだと理解した。
「後でお話聞かせてね!」
【ニンゲンと馴れ合うつもりはない。半分程、借りは返した】
帰りがけの駄賃だとばかりに彼がいると思われる周辺の根が切り裂かれていく。
なのはは彼の返しに落胆しながらも、今やるべき事を為すために顔を上げた。
魔力の翼を広げたレイジングハートをジュエルシードのコアになっている繭へ真っ直ぐ向ける。
「行って! 捕まえて!!」
レイジングハートの槍先に円環状の魔方陣が出現するのを見てユーノは驚愕を顕にした。
彼女の行使しようとしている魔法に心当たりがあったからだ。
円環の中央に溜められていくのは球状のまばゆい魔力。
そこから発射されるのは、
「……砲撃、魔法」
彼の呟きは発射された魔法にかき消された。
真っ直ぐに伸びた光はそのまま繭を貫き、少年が手に持っていた青い宝石、ジュエルシードの魔力を霧散させて。
宝石に数字が浮かび上がる。
≪stand by ready≫
「リリカルマジカル……ジュエルシード、シリアルⅩ! 封印!!」
再び放たれた魔力に乗せられるのは封印術式。
ジュエルシードへ直撃後すぐ、桜色は優しい光として街中に広がり、海鳴市市街地を侵していた大樹を消し去った。
騒動の原因がレイジングハートに格納され、なのはが己が愛杖に礼を言うと彼女のデバイスは赤いビー玉のような待機状態に戻る。
左手に乗ってきた宝玉をなのはが握ると同時、彼女の通う聖祥大附属小学校の制服に酷似した白いバリアジャケットが解除された。
そのまま街を眺め続けるなのはを見ながらユーノは思う。
自分にも扱えない遠距離魔法を感覚のみで組んで見せた彼女は、いったいどれだけの魔法の才能を秘めているのか、と。
「色んな人に、迷惑かけちゃったね……」
「え?」
なのはの憂いを帯びた表情を見て、ようやくユーノは彼女がジュエルシードによって巻き起こされた被害を自分のせいだと思ってしまっている事に気が付いた。
なのははちゃんとやってくれている。
そう言ったのはユーノの本心であったが、彼女の自責をやめさせる事は出来ず。
ジュエルシードの気付いていたはずなのに、気のせいだと思ってしまった。
そう語り膝を抱える彼女を慰めようと、ユーノは自分の責なのだからその手伝いをしてくれているなのはが自分を責める必要はないと言い募る。
だが、彼はどこかで気付いていた。
この責任感が強く、実は頑固者の一面を持つ少女が、自分の言葉で納得してくれるはずがない、と。
その事が、この同い年の小さな少女に重荷を背負わせてしまった事が、何よりもユーノはつらかった。
帰り道、荒れ果てた街を歩くなのはの前を一組のカップルが通り過ぎる。
それは大樹の核にされていた少年と少女。
少年は少女の肩を借りながらも、時折少女との会話に笑顔を見せて。
現在彼は笑えているけど、それは結果でしかない。
傷つけたと言う思いがなのはの胸を締め付ける。
自分なりの精一杯ではなく、全力で。
ユーノの手伝いではなく、自分の意志で。
もう絶対にこんな事を引き起こさないよう、なのはは自分の心に誓う。
それは、九歳の子供がするには真っ直ぐで重すぎる決意だった。
「あの仔の事も……あるしね」
「なのは?」
「なんでもないよ、ユーノ君」
そう、微かになのはは笑みを浮かべ、茜色に染まった街を歩いていった。
高町なのははただの小学生ではなく、この瞬間から魔導師になったのだ。
彼女の肩に乗るユーノ・スクライアも知らぬ内に、ひっそりと。
高町なのはは、戦士への道を歩き始めていた。